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かといって、上水道を整備するような技術も知識も、俺にはない。井戸を掘るくらいしか思いつかないけれど、それもどうやるのか知らない。
うーん。技術や知識を今から詰め込めるとも思えないしなあ。台本覚えるのは得意だけど、勉強はそんなに得意じゃない。
日記を閉じて、収納した。とりあえず、墨と硯、あと筆も買おうかな。筆は見たことあるし、変なものとも思われないだろう。それにゼラチンと、……ペンと鉛筆も買うか。必要かもしれない。
上水道のことは、俺にはわからん。井戸掘りのことについてくわしく書いてある本があったら、持っていこうか。そんな本あるのかなあ。
しゅうっとマルジャンが鳴いた。「あ、ごめん」
完全に、二頭のことを忘れていた。そもそも彼らに、使役について訊いていたのだ。
二頭は相談を終えたみたいで、マルジャンが軽く上下した。俺は小首を傾げる。
「えーと、話は終わった?」
一応訊いてみる。マルジャンもヤラも頷いた。……頷いたかどうかはともかく、とりあえず肯定を示しているのは間違いないと思う。
俺も頷く。
「で、どうかな。あっちに戻ったら、ふたりをすぐに解放したほうがいい?」
使役を解除したらその場で襲われる、という可能性もないではないけれど、限りなくゼロに近いと思う。
だって、マルジャンはともかくヤラは一回俺に伸されているし、マルジャンにしても、使役されている以上俺の魔力はわかっているだろう。魔力:優は凄いことみたいだし。
それに、ヤラとマルジャンなら意思疎通がなめらかにできる訳だから、ヤラがマルジャンに俺の戦闘力について話していると思うんだよな。チャタラって、結構話し好きっぽいのだ。封印についても、巨大チャタラから綿々と、話が受け継がれているのだし、コミュニケーションをとる種族なんだろう。
だから、使役を解除したら途端に敵対する、という可能性はほぼない。俺は安全圏に居る。それは心配していない。
問題は単純に、二頭の気持ちだ。魔王に使役され続けるという危険を冒すかどうか。
俺の質問に対して、マルジャンもヤラも、ふるふるっと頭を振った。お?
「使役、したままでいいの?」
どちらも頷く。「俺は助かるけど、危ないと思うよ。俺がまた封印されたら、多分マルジャン達も一緒に封印されちゃうだろうし、それに俺、ふたりに無理な戦いをさせるかもしれない」
俺は戦闘力に乏しいからな。魔物に対しては、職業加護のおかげで強いけれど、人間に対してはそうでもない。
だからそう云ったのに、二頭はそれでも頷いた。




