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簡単な止血くらいならできるっていうひとが、結構居たからな。だから皮肉なことに、娼妓くらいしか癒し手の本当の凄さをわかっていなかったんだ。日常的に危険な目に遭っていて、怪我や病気を正当におそれている娼妓達しか。
俺は恢復魔法はつかえないけど、偸利がある。偸利は動物だけじゃなくて、植物にもつかえるから、仮に怪我をしたとしても草が繁茂しているようなところを見付ければ俺にとっては病院みたいなものである。すぐに恢復できるだろう。マルジャン達になにかあったとしても、いざとなれば肩代わりできる。
応急処置用のお薬にしても、あちらの世界のもののほうが優秀だ。こっちにはない植物や、こっちには居ない生きものが沢山居たから、そういうものからお薬をつくればこちらのお薬とはまったく違うものができるのは当然である。
だから、お薬も、持っていきたいものはないかなあ。
不治の病みたいなものもなかったと思う。病気で亡くなってしまうひとは、いい癒し手に巡り会えなかったか、病気の発見が遅れたか、だった。セロベルさんのお父さんも、難しい病気だったそうだけれど、それだってミューくんみたいな凄い癒し手が居たらきっと助かっていた。だから、職業加護が外れだとかなんだとかで、癒し手になれるひとがならないのは、そういう意味で損失が大きいと思うんだけど……。
そもそもそんなに難しい病気になったとしたら、どんなお薬がいいかなんて医療の知識がない俺には判断できない。だから、お薬は持っていけない。
日記のページをめくる。やっぱり、たいした不便はなかったな。俺が経済的に恵まれていたってこともあるだろうが(転移時に余ったポイントでお金をもらえたのが大きい)、そもそもそこまで困るようなことがないのだ。
下水道はかなり整備されているし、道路も綺麗だし、建物もしっかりしたものだったし、魔物は出るけど警邏隊が巡回して討伐していたからまちには近寄らないことがほとんどだ。もし魔物が来てしまっても、警邏隊も傭兵も全力で戦ってくれる。家が壊れたら、傭兵協会から多少は補填してもらえる。裁判はめったにないみたいだけど、犯罪にはきちんと処罰があるし、被害者への補填もあるし。
それにそうだな。収納空間だ。
娼妓には、ちょっとした魔法もつかえない子も居た。それで、収納空間もないか、普通のものだったら、不便は多い。俺はお水を出せないから、いろんなひとにお水をもらったり、市場でお水を買って収納したりしていた。




