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脚立ののぼりおりで脚が筋肉痛になってる。運動なんてするもんじゃない。
外に出ると、白石くんが走ってくるところだった。俺はなんとなく片手を軽くあげる。白石くんははっとして、こちらへやってくる。
「どうしたの、白石くん」
「あ。あの、オーナーが」
白石くんは肩で息をしている。「ケータイがつながらないって……」
「え? あ、ごめんごめん」
ポケット(のなかに開いた収納空間の口)に手をつっこんで、ケータイをとりだした。にこっとする。
「電源切っちゃってた」
「ああ……」
嘘だ。収納空間にいれていたので、着信に気付かなかっただけである。なんでも収納する癖がついていて、意識せずに収納してしまっていた。
白石くんはインカムでどこかへ連絡している。どうやら、俺は数人がかりで捜索されていたようだ。多分おじさんは、俺があちらに戻ったかも、と、思ったんじゃないかな。心配させたなら、申し訳ない。
それに、事情もわからずにさがすよう云われ、従業員達は大変だったろう。迷惑をかけてしまった。
ケータイをポケットへいれる。笑みをつくる。
「おじさん、どこに居るの?」
「レストランです」
「わかった、行くよ」
白石くんはほっとした様子で息を吐いた。この子はいい子だな。水佳のやつ、本気なのかどうなのか、わからない。
ロビーに這入る。妹がフロントのふたりと話し込んでいた。「あ、お兄ちゃん」
「ああ」
「荷物、お部屋に運んでもらうつもりやったんやけど、崖崩れでトラックが通られんごとなったんやって」
「え?」
妹は肩をすくめた。崖崩れ。
カウンタに紙が置かれていて、妹がそれを指さした。近付いていって覗きこむ。この辺りの地図だ。「ここんところ。ほら、こっちから見て左っかわが、崖になってるやん?」
「ああ。そこが崩れたの?」
今日、ミチヒロさん達と一緒に自転車で走ったところだ。急な坂とゆるい坂にはさまれた、平坦なみち。
妹は頷く。
「やって。この間、三日ぐらい雨が続いて、下のところがえぐれてたみたいで、それに今年は梅雨も長かったし、その所為らしいわ。ほんで、配達のトラック、来られんって」
「道、つかえないのか」
「ううん」妹は頭を振る。「車は無理ってだけ。バイクとか自転車なら大丈夫みたいって。歩きも」
ああ……道幅がひろいところだからな。でも、車が通れないとなると、駅からここまでのバスも無理だろうし、タクシーも来られない。トラクターも無理だろう。旅館の経営的にまずそうだし、農家さん達が大変なのでは。




