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坂道をのぼりきったら、俺でも自転車で行けるようなみちになる。俺を先頭に縦列になって、安全な速度ですすんだ。たまに農家のひとが、思いがけない場所からあらわれることがあるので、速度は出せない。
この辺はそもそも畑や田んぼが先にあったのだから、あとから来た人間が遠慮するのは当然である。端的に云うと、おいしい食糧を生産しているひと達に迷惑をかけるなんて狂気の沙汰。
ほんとにゆるい下り坂のあと、俺でも自転車で行けるくらいの上り坂があって、また平坦なみちになり、旅館の前に辿りついた。俺はかし自転車置き場へ自転車を戻し、鍵をぬく。これをフロントに返すまで、自転車を返したことにはならない。
自転車のふたりは、駐輪場に自転車を停め、荷物をおろしていた。せなかに小さな鞄をしょってはいるのだけれど、自転車にも大きめのボストンバッグみたいなものをくくりつけていたのだ。そちらにはきがえなどがはいっているらしい。成る丈荷物を軽量化しても、着るものは省けないもんな。旅先で買ってたら、すぐにお金がなくなりそうだし。
ちなみにせなかの鞄には、ラップトップやお財布など、貴重品がはいっているそう。ケータイは自転車にとりつけて、マップを見れるようにしていた。
自転車からケータイと、飲みもののボトルをとりはずして、ふたりはこちらへやってくる。「ありがとうございます、マオさん」
「助かりました」
「いえ。フロントはこっちです」
玄関からなかへ這入った。フロントにはいつもの女性と、何故か白石くんがいる。服装がフロントのものではないので、一時的なことだろう。
ロビーに居た従業員にお辞儀で迎えられた。俺は軽くお辞儀を返して、フロントに自転車の鍵を返す。女性が両手でうけとった。「たしかに返却戴きました」
「はい。こちらのかた達、予約のお客さんです」
「シカタです」
ミチヒロさんが云うと、白石くんが名簿のようなものをたしかめた。「シカタミチヒロさまですね。竜舌蘭の間でご予約戴いています」
「ええっと、部屋の名前までは聴いてないんだけど……」
「あれ、聴いてないんですか?」
思わず口をはさむ。白石くんも女性も、きょとんとした。
俺がことの経緯をざっくり説明すると、白石くんとフロントの女性は頷いた。多分、フロントの男性が、引き継ぎをし損なったのだろう。俺の持ち込んだ宝石やなにかのことで、業務が増えているのかもしれないな。となったら、俺の責任でもあるから、俺がふたりに付き添えたのはほんとにいいことだった。




