3403
駅まではとぼとぼ、歩いた。ぐるっとまわるみたいに移動していたから、駅はすぐ近くだったのだ。
駅を出て最初に歩いた場所と違い、少々さびれた雰囲気の通りだ。アーケードになっているが、屋根が一部なくなっている。アーチだけが残っている構造だ。狙ってそうしているとは思えないので、なにかの拍子に屋根がなくなって、そのあと修繕されていない、ということだろう。
ぐるっとおなかが鳴った。いろいろ食べながらのショッピングだったけれど、歩いた分は消費している。
四辺を見た。営業中のおそば屋さん発見!
おそば屋さんは、出入り口すぐに四人用の座敷席がよっつあって、奥にカウンタ席が五席ある構造だった。座敷席がひとつ埋まっていて、俺は目が合ったお客さんになんとなく会釈しながら奥へ向かう。「いらっしゃいませ」
作務衣に前掛けの、四十手前くらいの女将さんが出迎えてくれて、俺はカウンタ席へ座る。すぐにおひやが出てきた。
「てんざるください」
女将さんはにっこりしてはいと云い、奥へひっこんだ。
中腰になって覗きこむと、厨房では背の高い亭主が、下駄履きでおそばをうっていた。めちゃくちゃ長い綿棒を華麗に操り、塊だった生地があっという間に布みたいにひろがっていく。手品か魔法を見ているようだった。
「うまいもんでしょ」
いつの間にか戻ってきていた女将さんが、俺の前に小鉢をふたつ置く。俺は椅子に座りなおし、首を前へ突き出すようにして会釈した。小鉢の中身は、にらの味噌和えと、ほうれん草のおひたしだった。
女将さんはにっこりする。
「こっちに越してきたばっかりで、開業からまだ二ヶ月なんです。よかったらごひいきにしてくださいね」
「あ、はい……」
「お箸どうぞ」
女将さんは嬉しそうに、割り箸をわざわざ手渡してくれた。俺は両手でそれをうけとる。
女将さんは厨房へ行って、亭主となにか話していた。すぐに、しゅわしゅわと、てんぷらを揚げる音がし始める。えびのいい匂いが漂ってきた。
楽しそうに作業しているのが、ちらちら見えた。俺はお箸を割って、にらの味噌和えを口へ運ぶ。「あ、うまい」
ぽろっと感想がもれた。それくらい、おいしい。
てんぷらを揚げるのは女将さんのお仕事らしく、その腕が上下に振られるのが数回見える。亭主はおそばをゆがいているらしい。
なんとなく胸が詰まった。
全然違う。全然違うんだけど、でも、リエナさんとセロベルさんを思い出した。四月の雨亭はどうなってるだろう? みんな元気だろうか?




