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朝食後、おじさんは今日も宝石の鑑定に付き合うそうで、レストラン前で別れた。俺と妹は、ロビーのソファに沈み込む。フロントの奥には本が常備しているそうで、そこで本を借りて読んでいるお客さんが散見された。
妹は不機嫌そうだ。
「どうした?」
「お休み命令。PR動画のお仕事から外された」
ありゃ。
おじさんには、チャタラに怪我させられたことが原因っぽい発熱、とは、伝えていない。妹も云っていない筈だ。お医者さんは、怪我がまったくない状態で診察したから、風邪だと判断したのだろう。
疲れているのなら休ませよう、という当然の判断だ。まあでも、もしかしたら、疲れているから怪我が治りきらなくて発熱したとか、あるかもしれない。
「二・三日、ゆっくりしたらいいだろ」
「お兄ちゃんて、余裕よな」
どういう意味かはかりかねて、首を傾げたが、妹はぷいと顔を背けた。
鑑定も値段交渉も、実際的なところはひとに丸投げだし、俺はやることがない。
と思っていたのだが、よくよく考えてみればあった。海産物の入手である。
あっちでは、裾野に暮らしていたからか、海産物にお目にかかることはほとんどなかった。えびとか鯖とか、還元で手にはいるものだったみたいだし、昆布くらいしかあちら産の海藻は見ていない。かつおぶしがあったのだって奇跡みたいなものである。多分、過去にこちらからあちらへ飛ばされたひとが、かつおぶしをつくりはじめたんじゃないかな。先人に感謝である。
ということで、遠征に行くことにした。旅館で自転車をかり、駅まで走って、電車でちょっと大きめの都市まで移動し、キャッチのおにいさんよろしく質屋さんでアクセサリを換金、かつおぶしや昆布を買いこむ……という計画である。
昨日、ぼたんやパンで散財したので、懐が寒い。それを、てっとりばやくアクセサリを売って、どうにか補う作戦だ。おじさんが手配してくれている貝ぼたんやはちみつは、戻ってすぐに収納すればいい。
妹も一緒に行くと騒いでいたが、会議室までつれていって、おじさんにひきわたした。宿泊費をおごってもらっているから、その分ほしいアクセサリを選ぶようにいいつけて。
俺は魔力が高いから、もし、ほーじくんがあちらでもっと多くの魔物を封印したら、こちらに飛ばされてきたそいつらが俺を目標にやってくるかもしれない。妹は安全圏に置くことにした。あからさまに遠ざけるのはおかしいけれど、理由があればあいつは納得する。
GPS発信器付きの自転車をかりて、俺は勇ましく駅へと出発した。




