3393
おじさんは、レストランに食事を注文する、と、居間へ行った。妹には、特製のおかゆをつくらせるそうだ。
俺はおじさんを見送ってから、掛け布団をそっとめくった。さっき、看護師さんが妹のカーディガンをぬがしたのだが、その時左腕がちらっと見えた。
「……消えてる」
確認すると、やっぱり左腕の傷痕は、綺麗に消えている。これは、ヤラの水花のおかげ、だろう。
もしかしたら、相当凄い威力の恢復魔法をつかえるのだろうか。傷痕をどうにかするのは難しいんだよな。
ミューくんが、ヨーくんの顔の傷痕をうすくした時、ヨーくんもバルドさんも凄く驚いていた。ふたりとも吃驚して、その後のちょっとの時間、魔法をつかえなかった筈だ。歴戦の傭兵が、魔法をつかえなくなるくらいショックをうけたってことは、凄いこと、とてもめずらしいこと、には違いない。
妹の怪我は、古いものではなかった。けれど、サローちゃんのお薬でも痕が残ったのだ。レント一、もしかしたら裾野一の腕前の、サローちゃんのお薬で、跡が残るのである。それを治せるんだから、ヤラってとんでもないのかもしれない。
妹がまぶたを重そうに開けた。俺は成る丈優しく、きがえを提案する。妹は承知して、水色の木綿のパジャマがいいと細かい注文をくれた。なので、妹の荷物のなかからそれをすぐに見付けだせる。
手伝いを申し出たが、きっぱり拒否されたので、俺は妹を残して居間へ移動した。そちらには先程とは別の看護師さんが居て、俺はそのひとに、妹のきがえの手伝いを頼む。看護師さんはすぐに寝室へ行ってくれた。
おじさんがローテーブルの上を示す。そこにはそっけない白いビニール袋があった。「解熱剤と抗生物質」
「ああ、あとで服ませないとね」
「あの子は薬をきらうけんのお」
袋のなかを確認すると、錠剤のシートが輪ゴムでとめていれてあった。妹は錠剤が苦手なのだ。かといってシロップも嫌いで、小さい頃から粉薬しか服みたがらない。お医者さんにそのことを伝えておけばよかった。
「粉薬にかえてもらえないかな」
おじさんはすぐに、ケータイでどこかへ連絡したが、残念そうに通話を終えた。「薬剤師さんが帰ったけん無理じゃと」
そんなもん?
わからないが、妹に委ねるしかない。
ふと、開いた窓から外を見ると、空がくらかった。いつの間にか日が暮れてしまったらしい。時計に目を遣って飛び上がりそうになる。もう夜の九時近い。妹のことで、時間の感覚がおかしくなっていた。




