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息を吐く。危険な状態ではなくなった、と思うと、力がぬけた。俺はその場に座りこむ。
ヤラが心配そうに俺を見て、しゅる、と鳴いた。俺は力がうまくはいらない腕を伸ばして、ヤラの頭を軽くなでる。「ありがと……魔力、わけるね」
妹の為に魔力をつかったのだ。これくらいはしないと申し訳ない。
魔力を少し譲渡し、二頭からは状態異常をもらった。ヤラは小さく左右に揺れる。大丈夫なの? なんともないの? と訊かれているような気がしてきて、俺は微笑む。
「俺は平気」
妹の様子を見た。呼吸は安定しているし、いつもより少しだけ赤いくらいの顔色だ。表情はやわらかい。眠っているらしい。
「妹を助けてくれて、ありがと」
ヤラは小さく頭を振った。俺はヤラに魔力恢復薬を服ませる。自分も服んだ。ショックをうけると、魔力によくないらしいから。
扉の開く音がして、俺は慌てて立ち上がり、窓を大きく開けた。「ヤラ、隠れてて」
ヤラが窓から飛び出す。次の瞬間、カーディガンを羽織った中年女性が、おじさんと一緒に寝室へとびこんできた。
「疲れが出たんでしょう」
看護師さんが妹を診て、微熱程度まで下がっているのを確認し、解熱剤の投与をやめた。そのすぐ後にお医者さんが来て、たった今診察が終わったところだ。妹はぐっすり眠っている。
お医者さんは微笑んでいる。
「軽い風邪ですね。二・三日ゆっくりすれば、すぐによくなります。熱がまた、高くなった時の為に、一応解熱剤を。抗生物質も出しときましょう」
「ありがとうございます」
お医者さんはにこっとして、お部屋の隅でおじさんと話し、看護師さんと一緒に出て行った。一旦帰る、というようなことを云っていた。
俺は妹の顔の汗を、タオルでそっと拭い、ヤラの足跡が幾つかくっきりと残っているのに気付いて、ひやっとする。多分、お医者さん達は、慌てていた俺がつけたものだと思ったのだろう。
収納空間からとりだした雑巾を、同じく収納していたお水で濡らし、畳を拭いた。さいわい、泥はすぐに拭える。「先生、どこに帰るん」
「ああ、近くに家があるんじゃ。ちいせえ診療所での。佐藤先生は腕がいいけん、病院にしたらいいち云うんじゃが、ここに勤めちょるのが気楽らしい。先生の為やったら幾らでん金は出すんじゃが」
おじさんはそう云って、妹の布団の傍に正座した。神妙な顔だ。「水佳に仕事させすぎじゃったな」
俺はなんとも云いかねて黙り、雑巾を収納し、おじさんの隣に座る。妹はお仕事が好きなのだ。とりあげるのも可哀相な気がする。




