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「お前みたいなきかん気が強いのは俺は嫌いだよ」
「お兄ちゃんだって無茶するくせに」
云い返してくる声に力がない。俺はそんなことないよ俺は向上心もなにもないから無理するなって云われたら絶対に無理しないよともごもご反論する。妹はくすっと笑う。
妹の熱は上がっているみたいで、俺の肩にまわしている腕が熱い。左腕を動かすと痛みがあるらしい。息を停めて、歯をくいしばっているのがわかる。
俺の所為だ。俺の所為で、妹は怪我をした。
はなれへついた。錠を開ける。妹は大きく息を吐いて、上がりかまちに座りこむ。くつをぬがしてやった。
「すぐ、お医者さん来るからな」
「いらない……」
「いらなくない」
蹴るように自分のくつをぬいで、寝室へ這入った。布団を敷き、妹に肩をかして歩かせる。抱えられるくらいの腕力がほしかった。
内線電話が鳴った。俺は妹を布団に寝かせ、夏用の掛け布団をかぶせて、居間にある電話まで走る。
「はい」
「真緒」受話器の向こうにはおじさんが居た。「すまん、大浴場で怪我人が出た。子どもさんがころんで頭打ったらしいで、そっちが優先じゃと」
悪態をつきそうになったがこらえる。症状的には、発熱よりも、そちらのほうが治療を優先すべきなのだろう。俺にはわからないが、お医者さんがそう判断したのだ。なら仕方がない。
おじさんは、看護師さんが解熱剤を持って来てくれるというようなことを云って、電話を切った。俺も受話器を架台へ戻す。
いらだって、二回、床を蹴った。こんな時、あちらの世界なら、すぐにでも癒し手が来てくれる。傭兵協会でも廟でも、癒し手は居るし、癒し手でなくても恢復……。
「あ」
俺は寝室へ駈け戻った。妹は大きく胸を上下させて呼吸している。熱が高いのだ。
「ヤラ、おいで」
ささやくと、ヤラがしゅっと、目の前にあらわれた。可愛さの欠片もない顔で俺を仰ぎ、小首を傾げている。多分な。あの動きが小首を傾げるという動作に該当すると思う。
俺は妹を示した。「水花と燕息、かけて」
ヤラはしゅーっと云って、かすかな光を発した。この、恢復魔法の光も、個人差あるよなあ。
妹の体がぱあっと光る。魔法がかかったのだ。これでなんとか、応急措置くらいにはなればいいけど。
お医者さんが来るまでの間に、重篤な状態にならなければいい。そう思ってヤラを呼んだのだが、どうやらヤラの恢復魔法はそれなりの威力だったらしい。妹の呼吸は安定し、顔の赤みもさった。




