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「マオ」
「こんばんは……リェンくんは?」
まさか、なにか酷いことでもされたのだろうか。
心配が顔に出ていたらしい。グエンくんは、大丈夫だよ、と云って笑った。「リェン、あのひとに気にいられちゃってさ。今日はお家にお邪魔してるんじゃないかな」
「え」
「上客掴んじゃって、羨ましいよ」
「俺がかわりに行けばよかったな」
「ねー」
男の子達はくすくす笑いながら言葉を交わす。
えっと……よかった、で、いいのかな?
俺が顔を強張らせているからか、男の子のひとりがははっと笑った。「マオ、残念だったね、リェンにとられちゃって」
あー、そういうあれではないんだけど。……まあ、いいのかなあ。リェンくん、大変みたいだったし、あのひとはまともな部類らしいし……うーん。
そのままそこで、少し話した。
「今日、ひとが多いね」
「あー、帰る前に遊びに来てるんでしょ? 多分」
「こないだ三次試験の結果出てたもんな」
ああ。え、じゃあ、試験受けに来た子の家族? ってこと?
グエンくんがにこっとして、片手をあげた。ひらひらさせながら、十代とおぼしい灰色の髪の子のところへ行く。灰色髪の子は狼狽えつつも、グエンくんの腕を優しくとった。「か。可愛い耳だね」
「ありがとう。ぼく、こんなとこ来ていいの? おかあさんに叱られるよ」
そのままふたりは、休憩室のほうへと流れていった。わー。
茶髪に銀色の目のティーズくんが、ぼそっと云った。「ああやってさ、記念に来るんだよ。父親とか兄貴と」
「ああそういうこと」
「ああいうお坊ちゃんならいいけどね。旅の恥はかき捨てだと思ってるやつに当たったら、首を括りたくなるよ」
ぞわっとした。
見る。ティーズくんはにこっとして、金髪の紳士のほうへと歩いていった。「おにーさん、子守りなんて大変でしょう? 楽しまない?」
あらためて室内をよく見る。
十代後半くらいの子が、慥かに多い。来年のチャンスはないと云う者もあるだろう。父親なり兄なりが、「大人」にしてやろうと連れてくるのかな。
「そういえば、女のひといないね」
「ん?」
「いや、ほら……その。稼ぎに来てないなって」
「来る訳ないじゃん。女はもっと高級なとこに勤めてるよ」
ほう。
なんでも、女性は切羽詰まった事態に陥りやすいので(多分妊娠のことだ)、もっと高級で、一晩にひとりくらいしかもてなさないようなところに勤めている。そういうところは見目麗しく、教養がないと雇ってくれない。間違いを避けるための薬もあるが、高価で、元締めが買って女たちに与えている。一回銀貨何枚では追っつかないそう。
ていうか、この子達の値段、一回銀貨何枚なのか。




