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「あんまり、よく思ってないんじゃないかな」
妹は頷いて、左を指さした。俺達はそちらへ曲がる。
そろそろ四時か、五時くらいだ。商店街のなかは、夏休みらしい子ども達が走りまわっている。郵便配達のバイクが徐行運転していた。
「信仰が違うし。ああ、そういえば、ロアには異教もあったな」
「で、サキくんとリッターくんの話な」
妹がそう云って、俺の腕をとり、軽く振った。
「そういう、お互いに敵意を抱いてるような国出身で、好きって云われたとして、簡単に受け容れる?」
「あー……」
ううん。リッターくんは、自分の気持ちには正直に動きそうだけど。
でも……ああ、そっか。リッターくんは、ロヴィオダーリ家の跡とりだ。そういうのは自由にならないのかもしれない。
そういえば、婚約も、全然自分の意思とは関係ないところでやるっぽかったしな。ツィーさまとかアーデルさまなら応援してくれそうだけど、リッターくんは結構責任感も強いし、簡単にサキくんに気持ちを伝えられないと思っているのかも。
それに、サキくんの立場も考えちゃうよね。
ロアは、同性愛はあんまり、表だって口にするようなことじゃないみたいな風潮がある。特に、男性同士だと、風あたりがきつい。
サキくんのことを好きなら、それをわかっていて、リッターくんのほうからは積極的になれないってことも、あるのかも。
でもなあ、リッターくんには弟のフォルクくんが居て、例えば裾野に移住しまーすみたいに云って跡目を放棄することもできる筈だ。サキくんだって、無責任だけどさ、おうちを出ちゃえばいい。サキくんみたいに還元が上手だったら、御山で雇ってもらえる可能性は高いと思う。
それにサキくん自身が云っていた。僕が居るから両親は養子をとれない、って。なら、御山での研究を理由にして家を出ればいい。どこの地域だって、御山で研究に打ち込みたいから結婚もできない、だから家を出る、という理由なら、大概のひとは納得するだろう。
ふたりとも、自分じゃ御山には勤められないって思ってたのかなあ。
迷った末に、云う。
「リッターくんなら、そういうの無視しそうだけど」
「そう? なんでも、お父さんにいいつけられたから、みたいに云う子なんやろ?」
それはそうだ。
ああ……そうだな。リッターくんは、そういう子だ。ジーナちゃん程じゃないけれど、家の意向というものに左右されることを不思議とは思っていない。




