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そうか、ロア人がシアイルとかディファーズ出身のひと達にあたりがきつかったり、避けていたりするのは、そういう理由もあったのか。
妹に云われて、あらためて考えるまで、なにもわかっていなかった。
でも考えてみれば、ロアの貴族階級とか、土地を持っている家のひと達って、その多くが、当時前線で戦っていた兵士達を先祖に持つのだ。癒し手もほとんど居ないのに、地の利があって還元が得意な先住民達と、勝ち目がうすくてもひたすら戦い続けていたひと達を。
そもそも、侵略戦争には膨大なリソースがかかる。相手は地形を理解していて、侵略側はその点で圧倒的に不利だ。雨が降りそうだとか、明日は霧になるとか、そういうことだってずっとその場所に住んでいるひと達ならわかるだろう。
それを前提にして、それでも物資が潤沢で兵士の数も多ければなんとかなるかもしれないが、侵略側は魔法もろくにつかえず(ってことは、攻撃手段が限られるってことであると同時に、天候の変化に大変弱いということだ)、癒し手もほぼ居ない状態だった。そんなつらい戦闘をさせられたことを、時間の感覚がこちらと違うあちらのひと達は、まだ忘れてはいまい。
数百年前のことは、つい昨日、みたいな感覚だからな。千年前くらい、先週のこととさほどかわらない。
ロア人、もしくはロア系が、裾野以外の他地域の人間、特にシアイル人やシアイル系に、態度がいまいちよくない理由が、わかった。つらい戦いを強いた王家がまだ残っていて、権勢を振るっているのだ。腹をたてるひとが居たっておかしくない。
ディファーズ系やディファーズ人に対しては、敵意がさほどではない理由も、わかる。ディファーズは、ロアが独立宣言をした直後、王家から応援要請されても拒んでいる。ロアに味方はしないが、敵対もしないという立ち位置だった。中立を保とうとしていたのだから、あえて敵視することもない。
しかも、ディファーズは当時、海の水位が低くなる、夏場にひょうが降ってきて大きな被害が出るなど、災害で大変な情況だった。安穏としていた訳ではないというのは、ロアのひとからすれば「お目こぼしする」理由になるのだろう。
ぱちんと、妹が軽く手を叩いた。
「理解した?」
「した」
兄妹なのだ。それで通じる。妹はこっくり、満足そうに頷いて、からになった紙袋をたたむ。
俺も紙袋をたたんだ。
「したけど、それとサキくん達がどう関わるの」
「お兄ちゃんって」
妹は言葉を切る。それ以上のことを云うのはやめてくれたようだ。助かった。




