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妹はうきうきした様子で踵を上下させる。
「お兄ちゃん、一口頂戴ね。かわりにこっちもわけてあげる」
「ありがと」ふいと思い出して、俺はつい、説教めいたことを云う。「お前さ、そういうの、あんまりひとに云うなよ。勘違いされるから」
白石くんのことが頭をよぎったのだ。
彼が悪いやつだとは思わないし、職務に忠実な立派な青年だと思っている。が、だからって、妹が白石くんと気安く接しているのを見ると、不安になる。心配するのは兄の権利だろう。
白石くんに、オーナーの親戚と親しくなったら得かも、という思惑が、まったくないとは限らない。妹は純粋だから、そういうものに対して免疫がないかもしれない。傷付くかもしれないのに手をこまねいている兄ではない。
妹はくすっと笑った。軽く、肩を叩かれる。
「家族以外にそんなこと、あんまり云わんよ。あげてももろうても、勘違いされちゃうかもしれないし」
「ああ、気を付けろよ」
「それはお兄ちゃんもやないの」
「俺は平気だよ」
いつもくいものの話ばっかりしてるし、食欲に偏ってるのはみんな知ってる。食べものを喜んでもらっても誰もおかしいと思うまい。あたりまえだけど、知り合ったばかりのひとにはご飯をあげたり……あ、してるわ俺。
レアディさんとか、ルッタさんエウゼくんとか、知り合って間もないのにご飯食べさせてた。ていうか、結構それやっちゃってるな。まあまあご飯でも食べて食べて、って。
いやいやでも、俺はそんな深い意味ないし。おいしいものはみんなで分けるのが当然でしょ? 食料を秘匿するなんて狂気の沙汰ですぜ。こっちからわけておけば、もしかしたら次はわけてもらえるかもしれない。情けは人のためならずである。俺がひとに親切にするのは、基本的に自分の為だ。自分の得になるかもしれないし、いいことをしたっていう満足に浸れる。
それに、防衛もあるかな。おなかすいてると、思考が負のスパイラルに陥ったりする。人間、おなかがくちくなれば、気が大きくなるものだ。おいしいものを沢山食べていたら、些細なことで怒ったり、ショックをうけたり、しにくいだろう。攻撃される可能性が減るということだ。
まあ、ほーじくんには特別なお菓子あげたりしたいけど、それはまあねえ、あの。そういうことだから。
「あ?」
「なに、お兄ちゃん」
ううん?
あらららら?
「お兄ちゃん?」
首を傾げた。
もしかして、もしかしたら、俺、リッターくんが誰のことを好きなのか、わかったかもしれない。




