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部屋で寝ろとセロベルさんに云われた。素直に従うことにする。
焦がしてしまったクッキーは、グロッシェさんが始末してくれるそう。お礼を云って、天板を焦がしたことを謝ると、グロッシェさんは鼻先をふよふよさせる。
「あの……大丈夫なんですか? 体は……」
「はい。ちょっと、寝不足なだけだと思います」
「……あの、無理はしないでくださいね。それと」
グロッシェさんは俯いて、低声ではやくちに云う。「お酒はやめて下さい。本当に体に悪いです」
うーん。解ってはいるのだけれど。
約束はできないので、曖昧に笑っておいた。
クッキーで糖分を補ってから、部屋で寝た。
魔力切れって、魔法をつかいすぎると起こるってやつか。低血糖だけど?
それとも、魔力切れなのかな。原因不明なのはそのせい……とか。
夕飯時にはだいぶ気分がよくなっていた。単純に、お酒の呑みすぎでは?
夜の献立は、ぎゅうぎゅう焼き。らくちん。深めでぶ厚い金属製のバットに、大きめに切ったお野菜やお肉を並べ、ハーブ、お塩と多めの油をかけてオーブンで焼くだけ。オリーブオイルがいいんだろうけど俺はなたね派だ。
れんこん・じゃがいも・バターナッツ・なす・トマト・塊のベーコンと牛チャック。ディルとローズマリー、タラゴン。量が多いのでサラダもスープもなし。発酵させたパンがかごにひと盛りついて、デザートはキウイのシロップ漬け。
焼く時のいい香りが客寄せになって、にぎわった。
簡単なので、サッディレくんやアーレンセさんに手伝ってもらいやすい。セロベルさんは、見栄えよくお野菜を並べるのを、すぐにマスターした。
「これ、楽しいっす」
「ねえ。あ、マオさん、サッディレくん用に、お肉だけのやつつくってもいいですか?」
「ああ、いいね」
バットと材料を用意すると、アーレンセさんは器用に詰めていった。豚もも、とり胸、山羊チャック、ベーコン、腸詰め。セージ、マジョラム、タイム。四隅にじゃがいも。腸詰めの皮が弾けるくらい焼いたら完成。
アーレンセさんがつくったのを、サッディレくんは嬉しそうに食べた。仲好しだなあ。
オーダーをしめきった後、お弁当はセロベルさんに託し、外へ出た。
夕食はちゃんと食べたし、収納空間には黒砂糖の塊もある。心配あるまい。
隠し扉を開け、階段を下りていく。今日も、体格のいい生き証人さんだった。
「こんばんは」
「……どうも」
記帳を済ませて奥へ進む。
今日はひとが多い。テーブルはほとんど埋まっていた。
壁際に、グエンくん達が立っている。リェンくんは居なかった。




