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鑑定士さんの部下は、宝石に相応らしい箱も持ってきていた。平たくて、木製で、ふたはほとんどががらすで、なかが見える。底にはびろうどが敷かれていた。
鑑定済みの宝石が、そこへ並べられていく。鑑定士さんがこれらをひきとってくれて、別のひとへ売る訳だから、今から丁寧に扱うのはよくわかる。そうか、宝石ってこれくらいきちんと扱うものなんだ。
「なあ」
ふいと思い出して、妹を見た。妹は真剣に、ルースジェムをよりわけている。「お前、今日話し合いがあるんじゃなかった?」
「延期になった」
妹はぱっと顔を上げ、こちらを向いた。目をぱちぱちさせているのは、突然見るものをかえて、うまく焦点が合わないからだろう。
「フォロワーが多いグループから、ここの動画を撮りたいって話があって、動画チェックできるならって約束で許可出してたんよ。こっちのSNSでも告知するって」
「ああ……」
昨日のレストランでの騒ぎを思い出す。やっぱり、あの子達は、妹のお仕事に関係があったようだ。
妹は肩をすくめる。
「昨夜、お兄ちゃんが温泉でのーんびりしてる間に、予定の半分しか完成してないって連絡があって。撮れるには撮れたけど、編集に時間がかかってるらしいわ。それになんか、レストランでいろいろあったみたい」
苦笑いになってしまった。妹にあれを知られたら、怒り心頭で暴れかねないので、黙っておこう。
妹のおかげなのか、改装がきいたのか、この二ヶ月くらいでこの旅館のお客は相当増えているらしい。妹はその話をする時、最初は機嫌がいいようだったが、最後は顔をしかめていた。
「二割くらいは叩き出したいけどね」
「え?」
「お兄ちゃん目当てだもん」
妹は不満そうに口を尖らせ、ふんと鼻を鳴らした。「こっちに隠れてると思ってるみたい」
はあ。成程ね。ずいぶんひまなひとが居たものである。
かかるお金がばかにならないと思うのだが……まあ、おいしいものを食べて、温泉にはいってのんびりすごせるのだから、宿泊費用もまったく無駄になっている訳ではない。カメラなりボイスレコーダーなりは埃をかぶるだろうが。
妹はにっこりして、金とアクアオーラのネックレスを首の辺りにあてた。長さやさわり心地をたしかめているらしい。「それもなくなると思うと、気が楽やわ。問題起こすひとも居たから」
「問題って、なに」
「バックヤードに這入りこんできたり、お風呂場にカメラ持ち込んだり」
問題というか、完全に犯罪ですが。




