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妹は俺と違ってお仕事を沢山しているので、お金はそれなりに持っているらしい。そもそも家族で喋ることではないのか、妹が秘密主義なのか判断つかないが、幾らなのかは教えてくれないが貯金も多いようだ。
俺? 俺は明朗会計、儲けも出費も家族に丸見えの状態である。計算のうっかりミスが多いので、父母に頼っているのだ。最近は妹にも頼りまくっている。持つべきものは計算に強い可愛い妹である。
妹はお財布のなかのお札を数えているようだった。俺は現金派だが、キャッシュレス決済を愛用している妹も、現金を持ち歩いている。おなかがすいた時にすぐにご飯を食べたい兄妹なので、ぱっと目についたお店に這入っても大丈夫なように、どこのお店でも大体通用する現金を持ち歩かない訳がない。
それでも、妹はいつもよりも現金を多く持っていた。なにかあるのだろうか。「今日はお金持ちだね」
「なに、云ってるの」くすくす笑いが返ってきた。「この辺、ケータイでなんとかできないから、どうしても現金が要るの」
「成程」
旅館には結構なものが揃っていて快適なので、忘れがちだが、そういえばこの辺は大層な田舎である。
鄙だしめぼしい娯楽施設やなにかもないし、なんのチェーンでもない都市部で見たことも聴いたこともない謎の横文字店名の食べもの屋さんが数件ある以外は、そういえばコンビニすらも近くにはない。交通の便が悪いし、昔から大手スーパーの配達が浸透しているからな。コンビニエンスなストアなんてできたとしても、輸送費で商品単価がとんでもないことになって、幾ら便利といったって利用者は少なそうだ。
そういう不便で、なにもないところだから、おじさんが目をつけたのだ。だって不便だし、幹線道路からも遠く離れていて、地価がお安い。温泉地だから、温泉が出るくらいではたいした売りにならないらしく、安く土地が手にはいったとほくほくしていたのを覚えている。
妹はちらっと俺を見る。
「あ、今夜、おいしいラーメン屋さん行かない? ふた駅離れてるけど、大盛りでも安くておいしいよ」
「いいな」思わずにっこりする。あちらでつくっていたラーメンもどきではなくて、本もののラーメンを食べられるかもしれないのだ。にっこりもする。「昼じゃだめ?」
「お昼はスッゴク混むの。迷惑になるから行かない」
俺も妹も、食べるのでその分滞在時間が長い。注文量も多いので、お店がすいていて忙しくないっぽい時間帯を狙う癖がついている。
俺が頷くと、妹はにこっとする。お財布から手を出すが、お札が数枚、小さな手に握られていた。「商談しましょ」




