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俺はにっこりして、まだなにか云いたそうなおにいさんを遮る。
「俺が勝手にやったことです」それがまったき事実である。あれは俺のエゴでやったことにすぎない。「あなたは指環を売って、そのお金をギャンブルにつぎこむことだって、それで豪遊することだってできたけど、それをしなかった。それは俺には関係ない」
随分口幅ったいことを云ってしまったが、おにいさんには響いたらしい。涙目でもう一度頭を下げられた。うーむ、居たたまれない。
「お兄ちゃん、お待たせ」
「ああ」
妹が出てきた。おにいさんは、ほうきとちりとりを両手で持って、さっと走っていく。
妹がそれを目で追って、それから俺を見た。「なに、どうかしたの?」
「別に。なあ、やっぱり明日もここに来よう」
「うん」妹はにっこり笑う。「明日はさつまいものかき氷食べる」
タクシーをつかまえていないことで妹に軽く叱られた。ケータイでハイヤーを呼び、俺達は旅館へ戻る。
前庭を、白石くんと従業員三人で清掃中だった。妹がにこにこ顔でそちらへ手を振っている。むむ。
ロビーに這入ると、フロントから声をかけられた。「真緒さま、オーナーが支配人室で待っています」
「はい。行こう」
「案内を」
「大丈夫です」
妹の手をとって、昨日歩いたルートを辿った。俺は一回通れば道を覚えるのだ。
支配人室にはおじさんと、見たことのない女性が居た。
おじさんはラフな格好で、ソファに座っている。「おう、はやかったのお」
向かいに腰掛けた女性は、えんじ色のスーツに濃紺のシャツで、白いパンプスをはいている。ジャケットには小粒のダイアモンドを沢山あしらったブローチをつけ、首許には大振りだが非常に洗練された上品な真珠のネックレス、大粒のエメラルド、ガーネット、ラピスラズリの指輪をひとつずつ、右手にはめていた。左手の薬指には、それをうわまわる大きさのダイアモンドの指輪がはまっている。
おじさんがさっと右腕を振った。「鑑定士のしのぶちゃんじゃ。俺の、小学校の同窓でのお。一番仲が好かったんじゃ」
「三木しのぶです」
鑑定士さんが優雅にお辞儀する。おじさんのようながさつなタイプと友達になるとは思えない、お上品なひとだ。宝石をごてごてつけていても、下品な感じはかけらもない。
おじさんがこともなげに云う。
「真緒、宝石、運んでくれるんじゃったな。隣をあけたけん、そっちに置いといてくれるか」
「うん」
おじさんがにこにこ顔で、鑑定士さんと雑談をはじめる。小学校時代の話のようだ。
俺と妹は目を合わせ、隣のお部屋へ向かった。




