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「こないだはどうも」
「あ……はあ……」
「お仕事、かえたんですね」
のんきに喋りかける俺に、おにいさんは数回お辞儀した。妹が焼きとうもろこしをかじる。「お兄ちゃん、友達?」
「あー、知り合い」
おにいさんがお辞儀しながら逃げていった。俺はかき氷にお匙をつきさす。「あとでひとくち頂戴」
「あーんしてあげるよ」
妹は笑いながらそう云って、自分の分のかき氷にお匙をつきさした。
「カーローンの?」
「そう。多分、あのひとも債務者なんじゃないかと思って、その時持ってた指環あげて、逃げたほうがいいよって。ダイアモンドと、アレキサンドライトと……サファイアだったかな」
かき氷の器は途中で交換した。もうあとひとくちくらいしか残っていない。
妹が目を、わざとらしくぱちぱちさせる。
「お兄ちゃんって、おかしなとこあるよ」
「そう?」
「そう。だって、もしかしたら、百年くらい時間がたってる可能性もあったんでしょ? その時は」
頷いた。たしかに、あの段階では、異世界に飛ばされた時からどれだけたっているのか、不明だった。百年二百年たっているかもしれないし、もしかしたら転移のずっと前かもしれない、と、考えていた。
妹が先に、器をからにした。俺もすぐにからにする。かき氷はとてもおいしかった。シロップもだけど、練乳が最高。
妹が器を重ね、テーブルの端へよける。「じゃあ、今後の暮らしがどうなるかもわからないじゃない。百年前に行方不明になったひとが戻ってきても、例えば、甥とか姪とかその子どもとかが居るかどうかわからないし、おじさんだって死んじゃってるだろうし」
「おじさんは二百年くらい生きそうだけど」
「それを云わないで」
笑わせてしまった。おじさんは再生医療とか、そっち方面にも興味があるようで、俺は三百までは生きたいといつか云っていた。その為に有機農法などをとりいれているらしい。三百歳まで生きる予定だから、環境が破壊されて不便が増えたらいやなのだそうだ。
妹が真顔に戻った。
「その指環を売って、当座の資金にしようとか、思うでしょ普通。収納空間がつかえるかどうか、わからなかったんだから」
「ああ、まあ、そうかな」
「ジェラート屋さんにも指環、あげてたし」
苦笑いになった。感覚がおかしくなっている自覚はある。お金になる、と頭ではわかっていても、気持ちがついていかないのだ。頭で理解していたから、あのおにいさんに資金源として指環をあげた。でも、気持ちではたいしたものではないと感じているから、他方ではジェラートとひきかえにした。
食糧がテーブルからなくなった。制限時間はまだまだある。もう少し、食べようか。




