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食糧、特にあちらでは高価だった、お米やはちみつ。手にはいりにくかった海産物。影も形もないカカオの苗。チョコレート。
妹は電話の傍に置いてあるメモパッドから紙をむしりとって、俺があちらへ持っていきたいものを書きつけてくれた。おじさんはふんふん頷いている。
「そういうのは、なんぼか、用意してやれる」
「ほんと?」
「嘘は云わん」
おじさんは顔をしかめてしまった。俺は早口で謝る。おじさんは嘘を疑われるのを嫌う。
謝罪でおじさんの機嫌はすぐに持ち直した。ひとの謝罪をすぐに受け容れる、素直なひとだ。
「まあ、俺に任せちょけ……くいもんだけやねえやろう?」
「あ、うん。小さいぼたんも持っていきたい。プラスチックじゃないやつ」
小さいぼたんは、あちらでは高価だ。一枚銀貨50枚なんてべらぼうな値段でもお手頃価格、二・三枚で貝貨1枚と交換なんてざらにある。
材質にもよるのだろうけれど、畏れおおくて誰も制作しようとしないから、高いのだ。基本的には還元で手にはいるもので、でも還元で小さなぼたんを得られるひとが少ない。だから、小さいぼたんの数が必然的に少ない。
沢山持っておけば、困った時にそれを売って、お金にできる筈だ。いちどきに放出しなければ、値崩れも起こらないだろう。
小さいぼたんを得られる還元士が少ないといったって、シリアルナンバーが刻まれている訳でも制作者の名前が書かれている訳でも鑑定書が付属している訳でもない。材質さえ、あちらにもあるようなものならば、違和感なく流通するだろう。
しかし、小さいぼたんがほしいという俺の要望に、おじさんはきょとんとした。
「ぼたん?」
「うん。シャツについてるようなやつ」
「ああ……そげなもん、要るんか」
当然の反応である。あちらで起こった出来事すべてを話した訳ではないから、小さいぼたんのことは、おじさんは知らない。あちらでの二年弱をすべて話していたら、少なくとも一週間はかかるだろう。
「あっちでは高価なんだ。宗教的な理由で、基本的には還元でしか手にはいらないから」
「はあ……ああ、カミサマが身近やって云うてたな?」
頷く。その辺りはおじさんにも話した。
おじさんは数回頷く。「色々やからな。うん。わかった。貝ぼたんでいいか?」
「うん」
「それやったらどうにでもなる。伝手があるけんの」
「でもおじさん」俺はおじさんの言葉を遮って云う。「宝石が売れなかったら、どうしようもないよ」
おじさんははははと笑った。「真緒が欲しいもんやったら、なんぼでも用意しちゃる。気にするな」
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