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おじさんは櫛をとりあげ、両手で持って、灯にすかすようにしている。目を細めて観察していた。「これは……相当、こまけえのお」
「1Cmに歯が十本あるんだって」
「はあ」驚いたらしい。「魔法でつくるんか?」
「多分手仕事だけど、職業ごとに特殊能力があるから、それの効果もあるかも。ゲームのスキルみたいなやつね」
おそらく、工芸士とか櫛職人的な職業があって、そういうひとがつくっているのだと思う。あちらではどんなものでも、つくるのに特化した職業があった。じゅうたんなどを織り上げるスピードがはやいとか、家をすぐに建ててしまうとか、家具をすぐにつくってしまうとか。
おじさんはわかっているのかいないのか、数回頷く。感心したように櫛を眺めてから、ローテーブルへ戻す。次は妹が櫛を持った。
おじさんは小さく頭を振った。
「すまん、俺はこういうのは、くわしいねえ」
「これお六櫛やないの?」
妹が云った。俺とおじさんは、妹を見る。
妹は櫛を両手で持って、見詰めていた。するすると撫でる。「みねばりやわ、このてざわり。持ってる」
「ほんとか?」
妹は頷いて、しかめ面をこちらへ向けた。
「お兄ちゃんも、見たことあるでしょ。これくらいの箱にいれてあるの。今も持ってるよ」
……ああ!
そっか、この櫛、どっかで見たことあるとずっと思ってた。妹が一時期つかってたやつだ。本当に、数日だけ。好きなのに髪質の所為でつかえないって、悔しそうにしてた。歯の間隔が細かすぎて、妹の髪質だとつかえないそうなのだ。
妹が高校生の頃だったかな? 千代紙を貼った綺麗な文庫みたいなのにいれて、たまにとりだして椿油をしみこませていたのを、かすかに覚えている。つかえないものなのに随分丁寧に扱うんだなあと不思議に思っていたのだ。結局、歯の間隔がもっとあらいやつを、実際につかっていた。そちらは癖毛でもつかえるらしい。
妹は櫛を掌の上で裏返す。
「異世界にもあるんやね、みねばり」
いや、多分、こっちからまぎれこんだんだ。もしくは、誰かが持っていった。俺みたいに突然あちらへとばされたひとが、偶然苗木を持っていたのかもしれない。
いずれにせよ、決めた。カカオの苗も持っていこう。俺が悪しき魂だったとばれていないと仮定して、話をすすめたほうがいい。
ばれていたら逃げ場はないんだから、対策なんて立てようがないのだ。なら、希望的観測で動く。
どっちにしても、あちらの情況はたしかめられないのだし。




