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妹が落ち着くまで、数分かかった。涙が停まると、顔洗ってくる、と妹は、手巾を持って洗面所へ這入る。
十分くらい、俺は外を見たり、ローテーブルへ突っ伏してひんやりした天板で頭をひやしたり、した。
妹が洟をすすりながら出てくる。
「ごめん」
「いや」
「あれ、洗ったから」
「ああ」
「ほんとはお兄ちゃんが泣きたいのに、水佳ばっかりめそめそして、ごめんね」
妹はまだ哀しそうな顔だし、声もか細い。とととっとこちらへやってきて、俺の隣に腰を下ろす。
ぎゅっと抱きしめられた。妹の体は細くて、ひえている。「お兄ちゃんがほーじくんのとこへ戻れるように、協力するから」
妹はお部屋に備え付けの電話のところまで行って、レストランに電話していた。夕食を運んでもらうらしい。「はい……はい。それ全部三人前で。宜しくお願いします」
「なあ」
「うん」
妹が受話器を置いて、こちらを振り向いた。俺は云う。
「あのな。俺、もしかしたら、あっちの世界へまた行けるかもしれない」
「え?」
妹は猫のような動きで俺の目の前まで移動した。はや。
上体をのけぞらせ、後ろ手をつく。「み」
「お兄ちゃん、くわしく話して」
「あ、ああ、話すから、あの……離れろ」
妹は小刻みに頷いて、立ち上がり、縁側の雨戸を閉てた。灯のスウィッチのところへ行って、一段階灯を強くする。それから、俺の向かいへ戻った。
ローテーブルの上で手を組んで、妹はじっと俺を見る。
「どういうことなん?」
「ああ。あの、確実な話やないけど」
「それでもいい」妹は低声で、でも強く云う。「どうやったらいいん」
俺は頷いて、息を吐く。マルジャン達のことも話さないといけない。
「俺は、使役っていう、生きものを自分の支配下に置く特殊能力を持ってる」
「うん。それで、馬の怪我を治したんでしょ」
「ああ。で……ほーじくんは、宣言したばっかりやったって、云ったろ?」
妹は頷き、俺は低声で続ける。「宣言したばかりには、どれくらい能力値が変化したかとか、職業加護は機能してるかとか、色々調べる」
「ああ、それは当然やわな。そういうのの記録もとるんやろ、御山って」
「そうなんだ。それで、ほーじくんはもともと恩寵魔法しかつかえなかったし、ってことは封印をつかえるようになるかも、って、先生がたも考えてて、その検証の為に魔物がつれてこられてたんや。俺は知らんやったけど」
「危険やないの?」
「魔法で眠らせてたみたい……その魔物が、さっきの、チャタラなんや」
妹の目が瞠られた。




