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「それが?」
自分の考えに夢中で、黙ってしまっていた。俺は、はっと我に戻る。妹が不安そうに俺を見ている。
「その封印っていう魔法が、お兄ちゃんとどう関わるの……」
「俺は悪しき魂だって、云ったろ。悪しき魂は、見付かったらすぐに殺される。そういうものなんや」
妹は二回、浅く呼吸した。その表情が歪み、目に涙がたまる。
「お兄ちゃん、封印されたの?」
俺は頷き、妹はひと粒、涙をこぼした。
俺を封印したのはほーじくんだと聴いて、妹は尚更泣いた。ぼろぼろと涙をこぼし、洟をかむ。
「そんなの……ないわ」
「ああ」
「どうしてそんなかわいそうな……」
妹はほーじくんに対して怒りを見せることはない。俺が、悪しき魂がどれだけ悪いものだとされているか、きちんと説明していたからだろう。寧ろ、ほーじくんが可哀相だと、彼に同情して泣いている。
「その子」妹は鼻をぐすっといわせる。「ほーじくんだって、お兄ちゃんのこと、慕ってたんやもんな。お兄ちゃんのこと本当に好きで……つらかったろうな、大好きで、仲好くしてた相手を、封印しないといけないなんて。そんなん、むごすぎるわ」
「それに関しては、申し訳ないなと思ってるよ」声が沈む。「俺が特殊能力を隠してたことが原因だから。好きになったと思ってた相手が悪しき魂で、ほーじくん、騙されたって、傷付いてるだろうし」
「そうかな……」
妹は手巾に埋めていた顔を上げる。目が充血し、鼻も赤くなって、痛々しい。俺はあたらしい手巾を渡す。
妹は涙とはなみずでぐちゃぐちゃの手巾をローテーブルへ置いて、あたらしい手巾で目許を拭う。
「そうかなって、なにが?」
「だって、その子、お兄ちゃんに謝ったんやろ」
謝る?
ああ……たしかに、最後にほーじくんが云ったのは、「ごめん」だった。あの言葉がなにに対してのものか、俺には正確にはわからない。承諾を得ずにキスをすることを、先に謝ったのだと思っている。
妹は違う意見のようだ。手巾で思い切り洟をかんでから云う。
「ほーじくんは、お兄ちゃんを封印するの、いやだったんだと思う。それがお兄ちゃんを傷付ける、悪いことやと思ってたんやないかな。だから、封印なんてしてごめんねって、謝ったんやわ、きっと」
「え……そうかな?」
俺は悪しき魂なのだ。そして、ほーじくんにはそれがわかった。それまで幾ら好きだったとしても、あちらの常識のなかで育ったほーじくんが、悪しき魂を封印することを「悪いこと」だと認識するだろうか?




