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「還元で素を世界へ還せば、その分世界はもとの美しい状態へ戻っていく。だから、宝石は無尽蔵、金もプラチナも無尽蔵、なんだって」
妹は口を半開きにして聴いていたが、俺がそう結ぶと、小さく溜め息を吐いた。「宝石が簡単にできるなんて、信じられない。ほんとに、異世界やな」
「ああ。異世界や」
俺は苦笑いで頷いた。
俺はこの話を知った時、もうだいぶあちらの感覚に慣れていたので、還元過多で魔物が沢山来るっていうのがこわい、という感想しか出なかった。だから、嫌悪とか恐怖だ。
妹の感想は、それとは違って、驚き呆れている。そうか、普通はそう思うのか。きっとそうなんだよな、普通は。
鉱脈や還元に関する話が終わり、俺はほーじくんについて喋った。
善なる魂を持った、祇畏士というあちらでは一番尊敬される職業についた子。猛禽類みたいな目をしていて、立派な羽があって、それで飛べる。のんびりしていて、優しくて、可愛くて、いつも何百回と洗濯してきたような服を着ている。
沙漠でやすでからまもってくれたこと、錬金術士殺しの時も飛んできて助けてくれたこと、ハツァルの邸にも駈けつけてくれたこと。それらを話すと、妹は声を低めて云った。
「その、ほーじって子、いつも助けてくれるんやな」
「ああ……うん」
妹はちょっと黙って、頷く。
「お兄ちゃんは、その子が好き?」
「……ああ」
こここそ、嘘を吐く必要が一番ない部分だ。ほーじくんを好きになったのは、はじることでも、隠さないといけないことでもない。
妹の云う「好き」は、友達としてとか、そういうのじゃない。
目を合わせると妹は微笑んだ。ローテーブル越しに手をのばしてくる。俺はローテーブルの上へ手を置いた。妹は俺の手を軽く叩き、ぎゅっと握る。「よかったね」
最後に話さなくてはならないのは、封印のことだ。おそらく俺がこちらへ戻るきっかけになった出来事で、それが解除されたら、もしかしたらあちらへ戻れるかもしれない。そういうことを、きちんと話さないといけない。
妹がどんな反応をするか、わからなかった。だから、俺は言葉を選んで、慎重に口に出す。
「俺は、悪しき魂っていう特殊能力を持ってるって、話したやろ」
「うん」
「それが、あちらでは悪いものだってことも」
妹は小さく頷く。顔色があまりよくない。唇がかすかに震えていた。俺が危険な目にあってきたのだという話は、少し負担だったのかもしれない。アフィテルディ達にさらわれたことをそこそこくわしく話したのは、失敗だったかな。




