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妹はおまんじゅうをひとつ食べ、もうひとつ手にとる。
「魔法とか、魔物とかあって、ゲームみたいな世界でさ。俺、そこでしばらく過ごした」
「……一週間くらい?」
「いや、二年弱」
妹は不満そうな顔でおまんじゅうを咀嚼している。俺は外を見遣った。誰も居ない。
妹へ目を戻す。
「とにかくそこで過ごした。色々、助けてくれるひと達も居て、常識ないから迷惑かけたりもあったけど、充実してた」
「だから?」妹はもごもごと云う。「さっき、哀しそうだった。さみしそうやった」
俺はちょっと考えて、頷く。妹の指摘は多分正しい。俺は、淋しいし、哀しいんだと思う。あちらの世界から分離させられたことが哀しいし、みんなに会えないことが淋しい。そういう感情はたしかにある。
「そうやな」笑うような声が出た。「友達、俺にしてはできてたんや。結構な人数な」
学校ではいじめられていたし、子役仲間は多くない。友達があんなにできたのは、はじめてだった。みんなが俺を友達だと思っていてくれたかはわからないけれど、俺はみんなを友達だと思ってた。
妹はちらっと俺を見て、小さく云う。
「どうやって戻ってきたの」
「さあ」
肩をすくめる。「よくわからん」
嘘じゃない。
俺は、封印の仕組みを理解していない。封印されたからこちらに戻ったのだろうと仮定はしているけれど、確定ではない。
判断のしようがないことだ。蓋然性が高いのはそうだろうが、俺にはあちらの状況がわからないし、推定するにしても材料が少ない。はじめから、あれくらいの時間がたったらこちらへ戻るようにプログラムされていた可能性だってある。
「封印解除まで」というあの表示だって、あれがゼロになったらあちらへ戻るという保証はない。
でも、そうなったらいいなと思っている。
魔物が居る世界で、はじめはそういう魔物がうようよしている沙漠で遭難しそうになって助けられたとか、戦闘力が乏しいから助けてもらってばかりだったこと、あちらでも宿で従業員をしていたこと、薬材をとって儲けたこと、賭場絡みでそれなりに危険な目にもあったこと、御山というこちらで云うと大学か大学院みたいな場所で働いていたことや、神さまが身近な世界だから天罰などがリアルに存在すること、そういう話をした。
どこからどう話したらいいのかわからなかったし、俺の説明は前後していてわかりにくかっただろうと思う。だが妹は、おまんじゅうを食べつつ、時折頷きながら、半畳をいれずに聴いてくれた。素直で、ひとの話をきちんと聴いてくれるのが、妹の美点のひとつだ。




