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俺達は手をゆるくつないで、本館へ向けて歩いた。「さっきのって、おにいちゃんが、……たおしたんだよね」
「ああ」低声で返した。「俺が殺した」
妹はちょっと黙って、それから云う。「ありがとう。ごめん」
ロビーには相変わらずお客さんが沢山居た。妹の服装を覚えているひとは居ないと思う。まあ、居たとしたってどうでもいいか。
妹は気丈に、俺の手を解いてフロントへ向かう。なにかしらの交渉をしているのはわかった。妹はすぐに戻ってきて、ぎこちなく微笑む。
「ふたり部屋にかえてもらった」
「お金、足りる?」
「うん」
俺は頷いて、妹と一緒にそのお部屋へ向かう。妹はほとんど口を閉じていて、ルームキーを確認し、金盞花だって、と云っただけだ。
廊下の途中の扉から外へ出て、中庭を経由してお部屋へ辿りついた。
金盞花と書かれた小さな札の下がった、はなれだ。妹の荷物を持った従業員が丁度来ていて、俺達は小さくお礼を云った。従業員はお辞儀して居なくなる。
くつを脱いで畳を踏みしめる。妹はサンダルの革紐を簡単に解いて、俺に続いた。「お水、飲むわ」
「ああ」
妹は疲れたみたいに頷いて、備え付けの小さな冷蔵庫からミネラルウォーターをとりだし、封をあける。半分くらい一息で飲んでいた。
俺は縁側に立って、外を見る。誰も居ない。ここなら、話しても誰にも聴かれないだろう。
振り返ると、妹は自分の荷を解いていた。「髪の毛洗いたいから、ちょっとだけ待って」
「ああ、うん」
妹は眉をひそめて自分の服を持ち、お風呂場へ走っていった。
俺は手をよく洗い、うがいをし、お水を飲んで、縁側でぼんやりする。
妹はすぐに戻った。「これ」
ベルトを畳の上へ置き、妹は目を伏せる。俺は頷いて、ベルトをひきとった。ガーネットのビーズがきらきらしている。
どういうふうに喋るか決めておけばよかった、と思った。
「最後まで、聴いてほしいんだけど」
結局、そんな言葉を最初に選んだ。妹は俺の向かいに座って、軽く頷く。ローテーブルの上のおまんじゅうの包装を解いて、かじっている。
「旅行だって云ったけど、本当は違う」
「……うん」
「俺、異世界に行ってた」
妹は、かじりかけのおまんじゅうから目を離さない。俺は小さく息を吐いた。「信じてもらえないだろうし、俺の頭がどうかしたと思うだろうけど、とにかく本当のことを話す。理由とか、どうやって行ったのかとか、それはわからないけど、とにかく俺は異世界に行ってた。さっきの魔物はその異世界のやつだよ」




