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妹を抱え起こそうとする。妹は泣きながら、俺の腕を掴んで立った。
「なあ……」
「なに?」
「今のなに」
妹のワンピースは酷い状態だった。所々に血がしみこんでいるし、土にも汚れている。モスグリーンのストラップのミュールも血まみれだ。綺麗な髪にも、草や土がついている。
俺は小さく息を吐く。「説明するよ。その前に、きがえたほうがいい」
旅館のお庭には素敵なものがある。お手洗いだ。
さいわい、チェックインで忙しい時間帯らしく、俺達のように散策しているお客さんは居なかった。従業員は居たけれど、俺と妹は植栽に隠れるようにしてお手洗いまですすみ、血まみれの姿を見られることはない。
妹へタオルと、あちらで買ったサンダルと、チュニックの丈が長いやつを渡した。チュニックはくるぶし丈で、ワンピースに見えなくもない。偸利で綺麗にしてあるし、緊急の措置だ。仕方ない。
妹は俺がそういったものを次々とりだしても、もう驚かないし、なにも云わなかった。妹がお手洗いのなかへ這入ったのを見届けて、俺はもとの場所へ戻る。チャタラは崩潰で跡形もなく消してしまったけれど、妹の血の痕が残っている筈だ。
妹の血は、玉砂利にくっきりと痕を残していた。さいわい、従業員が見付けた気配はない。俺は収納空間にいれてあるお水でそれを洗い流した。血があるよりも、唐突に局地的にお水があるほうが、まだ穏便だ。
血を地面にしみこませ、ついでに手を洗ってしまってから、俺はとぼとぼと、お手洗いへ向かった。
妹は腕と、顔も洗ったみたいで、さっぱりした様子だった。髪も、血や泥は見えなくなっている。
サンダルは器用な妹が綺麗に紐を結び、なにもおかしくはないが、チュニックはワンピースと云うよりも手術着みたいだった。袖をまくりあげたり、工夫はしているものの、なんだかおかしい。妹もそう思っているようで、情けないような顔をしている。「ベルトがあったらよかったんだけど……」
「これでどうにかなる?」
ガーネットのビーズでできた、バックルのついていないベルトをとりだした。妹はもう、値段がどうこうとは云わず、頷いてそれを手にとる。
妹がベルトをぎこちなく腰に結び、チュニックをひっぱって調整すると、手術着からは脱した。
「ありがとう」
「ああ。ワンピースは?」
妹はお手洗いのなかを示す。這入ると、洗面台に血まみれのワンピースとミュール、それにタオルが重ねて置いてあった。俺はそれらを収納し洗面台を簡単に洗って外へ出る。
妹は泣きそうな顔で立っていて、俺の手をそっと掴んだ。不安にさせたくないのに、また、不安にさせてしまった。




