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隠していない、と云うことは簡単だけど、妹はその嘘にも気付くだろう。だから俺は黙る。「おにいちゃん」
妹は、強い人間ではない。寧ろ、もろい。だから、異世界がどうのこうのと云って、心配させたくない。妹は常識人だから、俺の正気を疑うだろう。
そういう気持ちにさせたくない。そうやって俺を疑うことで、妹は傷付くと思うから。
妹は手巾で目許を拭って、項垂れた。
「喋ってくれんの」
黙り込んでいると、妹は涙に濡れた目で俺を、弱々しく睨んでくる。俺は妹の、肩にかかる髪を、そっと払いのける。
妹は、俺に喋るつもりがないと察したみたいで、ぷいっと顔を背け、松林へ走りこんでしまった
俺は風流な庭園内を、妹を追って歩いた。妹も俺のように走るのが嫌いみたいで、すぐに歩きにきりかえていたのだ。
だが、俺が近付くとさっと走り、距離をつづめさせない。それにさっきから、何度も同じところを歩いている気がする。ぐるぐるまわって、また、松林に這入った。
俺は弱り果てて、妹の後ろ姿へ云う。「なあ、そんなに怒らんでもいいやろ」
「よくない」
震える声が返ってきた。「また、仲間外れにするんや」
ぐっと詰まった。
俺のスキャンダルのことだ。最初期には、妹に秘密にしていた。こんなに騒ぎが大きくなると思っていなかったし、妹に不必要な情報を与えて心配させたくなかった。妹はなんでも気に病むし、不安がつのるといろんなことが手につかなくなる。そんなふうにさせたくなかった。
だが、それは妹を酷く傷付けていたらしい。
「そうじゃなくて……」
「信用してないんでしょ」
「してない訳……水佳!」
俺の声には必死さがあったのだろう、妹がはっとして振り向いた。俺は妹へ駈け寄る。妹の手首を掴んでひっぱる。
妹を両腕で抱きしめた。さっきまで妹が居たところに、チャタラが落ちてくる。勘弁してくれよ、三匹目なんてそんなのありか?
妹の、半袖から出た腕から、血がぼたぼたとしたたり落ちている。妹の上腕にはばっくりと傷口が開き、内部の組織がしっかりと見えた。妹は喉の奥で唸るみたいな声を出すが、それだけだ。痛みで喋れず、動けもしないのだろう。俺の腕のなかで、ぐったりと力をぬいていく。「水佳」
妹は答えない。
俺は松の枝から飛び降りてきたチャタラを見る。きっとヤラのように、俺の魔力をめあてにやってきたのだろう。マルジャンよりもヤラよりも大きく、元気がいいように見えるチャタラだった。どうやって妹の腕を切り裂いたのだろう? どうやって俺の妹を怪我させたんだろう?
どうやって殺してやろう。




