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「お兄ちゃん、前髪に寝癖ついてる」
「いいよ別に」
そんなもの気にするひとなんて居ない。
俺と妹は並んで、旅館のお庭を歩いていた。妹とふたりなら大丈夫だと判断されたみたいで、俺と妹が揃って出て行っても誰もなにも云わなかったのだ。
もしかしたら俺は、逃走するかも、とでも疑われていたのかもしれないな。妹ならここでもなにかしら仕事をしていて、フロントも顔見知りらしかったし、旅館的には安心できる人間だ。
「いいお部屋とれた?」
「あ」
「忘れてたん」
呆れたような声に、頷きを返した。妹は肩を震わせて笑う。ふくらはぎ丈の、生成りのワンピースの裾が、ふわふわ揺れた。これくらいの丈でも、ジーナちゃんははずかしがっていやがるだろう。はしたない、と。
ジーナちゃんは、大丈夫かな。ミューくんの癒しの力のことは、彼女には負担になっているかもしれない。それでも、ミューくんを助けよう、まもろう、と、心を砕くのがジーナちゃんだけれど。
ミューくんは、みんなにも話すかもしれない。ユラちゃんならなにか方策を見付けてくれるかもしれないし、それにサキくんは、色々云っていたけれど、ミューくんのことを凄く大切に考えていた。ミューくんが傷付かないように、手を尽くしてくれるだろう。
リオちゃんやリッターくんだって、友情に篤いから、ミューくんが困っているのなら助けようと思うに違いない。
そう。
ほーじくんだって、ミューくんを、それにみんなを、友達だと思ってる。きっと。だから、ミューくんを助けているだろう。俺が居なくたって、ほーじくんは平気だ。
平気な筈だ。
「それやったら、なあ、同じお部屋にしようえ」妹は笑いながら振り向いて、表情を凍りつかせた。「お兄ちゃん?」
「うん?」
妹が立ち停まる。だから俺も停まった。
そっと、腕を掴まれる。「なんかあったん? どうして、そんな、かなしそうな……」
妹の目に涙がたまっていくのを俺は見ていた。
お庭には休憩できるように、ベンチがある。俺は涙ぐむ妹を宥めて、そこまで歩かせた。こんな時に妹を担げるくらいの腕力がないのがもどかしいし、ふがいない。妹は痩せているから、並みの男なら抱え上げたってなんでもないだろうに、俺にはその力がない。
妹をベンチに座らせて、自分もその隣へ腰掛けた。
かかとを地面につける。妹も似たような格好をしていた。兄妹だなあと思う。「なんでもないから。気にしないで」
「嘘や。お兄ちゃんあんな顔せんもん」
妹は洟をすする。「どうして隠すの?」




