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茶髪女性と同じグループの三人は、お会計をすませてすぐに出て行った。その前に写真は消去している。写真を消すという条件で、役付のひとへの暴力をなかったことにする、と、そんなふうに話がまとまったからだ。
四人が居なくなって、役付のひとは騒ぎについてお客達にわび、それぞれのテーブルに人数分の、旅館の割引クーポンが配られた。「チェックアウトの際にフロントへ提示してくださいませ」
俺ももらった。宿泊・温泉使用料15%引き。ひとグループ一回につき一枚まで使用可能。これはなかなかの痛手ではないだろうか。
人数分なので、家族五人分をもらって吃驚した様子の若い夫婦や、大学生らしいグループの戸惑い顔が見えた。
役付のひとはにこやかだ。
「こちら、無期限ですので、またいつでもつかって戴けます。当旅館が潰れる見込みはございませんので、お好きな時にどうぞ」
その言葉で、ちょっと笑いが起こった。その笑いが大きくなり、役付のひとは頭を下げてカウンタへ戻る。女子高生らしいグループが、あのおじさんかっこいいねえ、と子どもらしい口調で感想をもらしていた。
「すみませんでした」
食事を終え、カウンタへ行って、まずそう謝った。
役付のひとは一瞬俺と目を合わせ、苦笑らしいものをうかべる。「いえ、お客さまは関わりございません」
「でも……」
「実際、許可を出す前に撮られた写真や動画は、消去して戴くと、決まっております。渋られるかたへの対処法も、研修で学ぶんですよ」
そうなんだ。俺はこことは別の旅館で働いてたし、そっちではそういう研修はなかったから、知らない。
レシートと、おつりをうけとる。役付のひとはいたずらっぽく笑う。
「あのお客さまがたは、不自然なところもございましたので」
「不自然ですか?」
「ほかに席が空いていたのに、あの席へ」声が低くなる。「あなたを見付けてあの席を選んだように見えたと報告が」
「ああ……」
このひとは、俺がもと・子役で、なおかつオーナーの身内だと知っているらしい。
成程な。じゃあやっぱり、あの四人組は、俺がここにあらわれないか張っていた、どこかの記者だったのか。
それが雑誌社なのか、新聞社なのか、はたまたフリーランスなのかは知らないが、ここなら長期間泊まっても、俺があらわれさえすれば(写真を撮って記事を書くことで)もとはとれるくらいの宿泊費だ。
苦笑いになってしまった。「じゃあやっぱり、俺の所為ですね」
「いいえ。決まりを破るかたが悪いのですよ」
役付のひとは驚いたみたいにそう云って、軽く頭を下げ、俺を見送ってくれた。




