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黒髪ボブにピンクメッシュの子が、鞄からとりだした紙をひらひらさせた。朱肉っぽい赤が見えるので、がちがちに許可どりしてきたのだとわかる。もしかしたら、妹が推し進めていた、なにかの企画かもしれない。ネット番組がどうのこうの云ってなかったっけ。そういうとこで、旅館を宣伝するのかなあ。
銀髪の子が顎を軽く上げた。
「ほら、うちらはちゃーんと許可とってるよ、オネーサン」
「料理の写真くらい、わめいてないで撮りなおせばいいじゃん」
「迷惑だから静かにしてよ。あんたの家じゃないんだから」
茶髪女性がぶるぶる震えた。怒っているらしく、声が更に大きくなり、ひび割れる。
「だから許可が要るなんて知らないって云ってるでしょ!」役付のひとへつばを飛ばして云う。「今許可出しなさいよ! それなら問題ないじゃないの!」
「いえ、決まりですので、許可を得る前に撮られた写真は消去」
「写真を消せなんて横暴じゃない!」
「心苦しいですが決まりです。わたくしは当レストランの決まりを勝手にかえることができるような立場ではありません。支配人やオーナーが決められたことです。申し訳ございません」
「じゃあその支配人を呼びなさいよ」
役付のひとは怯まない。冷静に、丁寧に、口調も揺るがない。「許可を得てから、撮りなおしてくださいませ」
「ふざけないでよ、もうこんなに食べてるし今更撮ったって」
「ああ、そうでしたか」
役付のひとが嬉しそうにした。茶髪女性がぴたっと動きを停める。不穏なものを感じたらしい。
役付のひとは頷いた。嬉しそうに。
「こちらの掲示の仕方が紛らわしかったのがそもそもですね」
「ええ、ええそうでしょ。だから」
「食事の写真を撮って旅の記録にされるかたもいらっしゃるでしょう。そういったお気持ちへの配慮が足りませんでした」
「そうよ!」女性は戸惑った様子ながら、大きく頷く。「だから写真を消せなんて云うんじゃ」
「申し訳ございませんでした。では今から、もう一度心置きなく撮影できるように、同じものをつくりましょう。先程撮ったものは一旦消して戴いて、あたらしいものを撮影してください。これならばわたしも、支配人やオーナーから叱られずにすみます。君、厨房へ行って、こちらのテーブルに先程と同じものを運ぶように云いなさい」
ウェイターさんがかしこまりましたと云って足早に歩いていった。
茶髪女性は椅子から、おもむろに鞄をとりあげると、それをふりまわして役付のひとを強く殴った。ふんと鼻を鳴らして鞄のストラップを肩にかけ、ブーツの底をかつかついわせて出て行く。ありゃあ。




