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俺がおいしいもので気を紛らそうとしていると、レジカウンタの向こうから、役付のひとが出てきた。俺に軽くお辞儀して傍を通り、そのまま、勝手に俺の写真を撮ったひとのテーブルへ近付いていく。
役付のひとは、にっこり笑った。「お客さま、当レストラン内は写真撮影に許可をとって戴くことになっております」
「は?」
そのテーブルの四人が、一斉に手を停めた。揃って、テーブルのすぐ傍に立つ役付のひとを見ている。そのうちのふたりは、露骨に睨んでいる。
空気が重苦しくなった。レストラン内が静まりかえっている。俺はゆずこしょうをちゃぼにつけ、口へ運ぶ。あ、つけすぎた、からい! でもうまい!
役付のひとは重ったるい空気にもめげず、にこにこと、朗らかにやわらかく、しかしはっきりと、云う。
「先程、ケータイをとりだしてらっしゃるのが見えましたもので、注意さしあげようと。通話などならば問題ないのですが、写真撮影については厳格な決まりがございまして、どなたであっても事前に許可をとって戴くことになっております」
「は……?」
「そんなの、聴いてないけど」
明るい茶色の髪の女性が、不機嫌そうに云い返した。ほか三人が、それぞれに同意を示す。頷く者あり、そうだよと追随する者あり。周囲のテーブルのひと達も、こそっと、そんなの云われた? みたいに会話していた。
役付のひとは丁寧に頭を下げてから、出入り口方面を示した。
「申し訳ございません、皆さまご存じなものと思っておりました。入り口左にはっきりと掲示しておりますもので」
四人組が口を半開きにする。俺はちゃぼの骨のまわりのお肉を食べながら、そういえばそんなの書いてあったな、と思う。
俺は、食べものと云えば食べることしか頭にない。さめないうちに、できたてをおいしく食べたい。なので、写真撮影云々の注意は関係ない。あとで材料をメモすることはあっても、写真を撮る前に食べてしまうのだ。
妹は割と、撮影も楽しむタイプだが、もし撮影する場合はお店のひとと、近場のテーブルのひとに許可を得てからだ。食べものの写真を撮るふりで自分達をとっているのでは、と思うひとも居るから、その点きちんとしないと問題になると妹は考えている。
それは事実かもな。様子からして、俺の写真を撮っていたのは間違いないだろうが、勘違いの可能性もほんのわずかにある。はじめに、今から料理の写真を撮ります、ひとがはいらないように気を付けます、と云われていたら、そんな勘違いもない。




