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ロビーはにぎわっている。すぐ傍のレストランでご飯を食べて、ロビーのソファでいい景色を楽しみながらくつろぐひとが多いのだ。
ロビーに無事、辿りついたことで、白石くんがほっとした顔になった。「また、なにかありましたら、呼んでください」
「はい。ありがとう、白石くん」
白石くんはにこっとして頭を下げ、フロントへ歩いていった。すぐに、お客さんのボストンバッグを預かって、お部屋へ案内している。
俺はそれを見送って、傍の壁に掛かっている案内図を見た。お手洗いへ行って用を足し、ついでにチャタラ達の状態異常をもらっておく。吐き気がするが、すぐに治る。
それから、レストランへ這入った。お財布がまた軽くなるぞ。でもこの辺、コンビニもないからなあ。
レストランは席が半分くらい埋まっていて、俺は眺望のいい席に通されそうになった。しかし、高所恐怖症の人間には、それがいい景色だというのはわかるがおそろしいものである。なので遠慮した。
ロビーの景色は別。あれ、窓枠が工夫してあって、額みたいに見えるから、景色そのものも絵みたいに感じるのだ。だから不思議と、そこまでこわいとは思わない。さすがに、ぎりぎりまで近寄るとこわいけどね。
ウェイターさんは苦笑して、俺を出入り口近くの席に通してくれた。お礼を云って席に着く。
山菜ピザと、旬のきのこのパスタ、かぼすゼリーとゆずの蜜煮、ちゃぼのむし焼きを注文した。ちゃぼには季節のサラダと羽釜で炊いたご飯がついてくる。全部で六千円ちょっとなので、味とボリュームを考えれば高くはない。
それでも、四月の雨亭はもっと安かったな。これには眺望の代金もはいっていると見た。仕方ないよな、温泉地だから地代もばかにならないし、有機農法はコストがかかる。
しばらくぼーっとしていると、お料理が運ばれてきた。とにかく食べて、おじさんの返事を待とう。それしかできない。
山菜ピザは相変わらずおいしい。きのこパスタも、生パスタらしく、もちもち麺でおいしい。ゼリーと蜜煮も甘酸っぱさが最高だ。ちゃぼのむし焼きは云うまでもない。
もりもり食べていると、近場のテーブルから視線を感じる。指環してなかった、と焦るが、しかしこちらでは髪が短かろうがアクセサリをつけていなかろうが、気にするひとは居ない筈だ。とすると、なんだろう。
カメラのシャッターを切る音がした。ぱっと顔を向けると、ふたつ離れたテーブルのお客さんが、慌てた様子でケータイを仕舞いこんでいる。
それで気付いた。そうか、俺の顔を知っているひと達だ。




