3324
俺は支配人と、おそらく裏口へ向かうらしいおじさんへ、声をかける。「おじさん、レストランって、ロビーから行ける?」
「おう」おじさんは立ち停まって振り返る。「場所、かわった。ロビーのすぐ右じゃ」
「わかった。ありがと」
「好きなもん、好きなだけくえよ。中華でもイタリアンでもフレンチでも懐石でも、云えばつくっちくるん」
おじさんは手をひらひらさせて、支配人を従えて歩いていった。俺が好きなものを好きなだけ食べたら、おじさんのお財布といえどもからになるかもしれないのに、気前のいいひとだ。
白石くんはおじさんの後ろ姿を見て口を半開きにしていたが、はっとして、俺の案内をしようとした。「あの、ロビーへ」
「ああ、大丈夫。もう覚えたから」
「は?」
「白石くんはいつものお仕事に戻って」
俺はおじさんみたいに片手をひらひらさせ、ロビーへ向かった。「ここまで案内してくれてありがとうね」
一旦通れば道は覚える。
さっき、案内がないと歩けなかったのは、支配人室なんて用事がないから行ったことがなかったのと、俺がここに最後に来た時とは内部構造がかわっていたからだ。おじさんはお客さんにつかいやすいように、もしくはお客さんのニーズに応える為に、改装くらいは平気で繰り返す。お気にいりの工務店さんに無茶を云って、苦笑いさせている場面は、何回も見た。
この宿は「安価だけれど隠れ家的」なのが売りだ。だから、はなれが沢山ある。それで、各はなれから本館へ這入りやすいように、いろんなところに出入り口があるという構造なのだ。安価なので、残念ながらお食事は別料金で、レストランで食べるか、レストランから出前してもらうか、である。なので、すぐにご飯を食べに来られるように、出入り口が多い。それはここにはじめて来た時に、おじさんの口から聴いた。その時よりも断然、出入り口は増えている。もしかしたらその分、はなれそのものも増えているのかもしれない。
食糧の持ち込みは自由なので、ここに来るまでにコンビニにでも寄って、なにか買ってくれば、食費は浮く。だけど、この辺コンビニがないから、計画的にしないとそれは無理だ。予約の段階でそれを知っているお客さんなら対応できるかもしれないけれど、飛び込みだと知らなくて、レストラン高いって思うかもな。レストランも、そこまで高い値段設定じゃないが。
それははっきり覚えてる。お食事したことあるから。山菜のピザと、やまめの塩焼きと、野菜豆腐と鹿肉のお鍋がおすすめ。




