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キャップの子がろいくん、くせ毛の子がこうじくん。どちらかはなんだか難しい漢字をつかう名前だ。小学三年生だそう。
サインをねだられ、ふたりにひっぱられて、座席に腰掛けた。案の定、三十代くらいの女性はろいくんのお母さん、高校生くらいの子はこうじくんのお姉さんで、一緒に離れたところにある大きな図書館へ行く途中だそう。ふたりの夏休みの宿題の為にだ。そちらに親戚が居るので、今日から数日、泊まり込みらしい。だからふたりとお姉さんは、大荷物なのだ。お姉さんは隣の席に、大きなボストンバッグを置いていた。
ろいくんママが苦笑いになる。
「車で行こうって云ったのに、この子、電車が好きで。この電車にのりたかったらしくて、こんな時間に」
「でもよかったじゃん、マオちゃんに会えて。お母さん好きでしょ」
ろいくんがこましゃくれた調子で云い、ろいくんママは赤くなった。こうじくんが口を開こうとすると、こうじくんを抱えていたお姉さんがぱっと口を塞ぐ。
俺はくすっとした。
「もし迷惑でなかったら、おふたりの分も書きましょうか? サイン」
ふたりともはにかんだみたいに笑って、頷いた。
色紙はないので、ふたりの国語のノートに書くことになった。こうじくんが筆ペンを持っていて、それが一番太く書けるペンだということで、それででかでかと書いた。
「ノート、つかえなくなっちゃうんじゃない?」
「だいじょうぶ! ママ、あたらしいのかってくれるよね」
ろいくんママはにこにこして頷く。喜んでもらえたのなら、よかった。
四人にサインを書いて、なんとなくそのままその席で、お喋りする。子どもふたりは、悪霊小学校が大好きみたいで、登場人物の誰が好きだとか、どの年度のどの部分が好きだとか、そういうことを楽しそうに喋っている。俺が出ている作品も好きみたいだ。公開から時間がたっているけれど、この年代の子どもにはうける映画なんだなあとあらためて思う。子どもにうけるって凄いよな。
「マオさんはどこかにおでかけですか?」
「はい」
こうじくんのお姉さんへ目を向ける。彼女ははにかんで目を伏せてしまう。「俺も親戚のところへ行くんです」
「へえ……」
それから、四人が電車を降りるまで、楽しく喋った。気持ちが解れている。いいな、こういう他愛ない会話。
四人が電車を降りたあとも、俺はしばらく電車に揺られた。電車を降りると、手続きを済ませて、俺はすぐに飛行機にのりこんだ。フライトが予定どおりなら、何時間もせずに、おじさんの旅館がある県に辿りつく。
それまで少し、寝ていようか。




