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連絡先や住所、名前を訊かれ、今度こそ本当に解放された。「真緒、水佳」
両親がやってきて、妹が無言でふたりにとびつく。俺もそちらへ行って、妹のせなかを軽く撫でた。
父と目を合わせる。
「今日は、そっちに帰らせたほうがいいかも」
「ああ……真緒は大丈夫なのか」
頷いた。「悪いけど、今日は帰らないほうがいいと思う。明日のことで、誰か来るかもしれないし。俺が居たら騒ぎになるよ」
「ああ、ああ……そうやな」
「もし来てたら、居場所は知らない、わからない、って、ごまかしといて」
明日は俺に対する誹謗中傷の裁判があるのだ。それに関してなにか訊こうと、記者が来ているかもしれない。実家はばれている。数回、両親が警察に通報しているそうなので、俺が居なかったらくいさがらないだろう。
ロビーはぐちゃぐちゃだし、これ以上の見学は不可能だそうで、俺達は帰ることにした。外はかなりくらくなっている。長時間ここに居たが、ほとんど事情聴取の時間だった。
学芸員が、入館料を払い戻すと云っていたが、妹がかなり不安になっているようなので俺達はそれを断って、外に出た。
母がハイヤーを呼んでいる。外にも投光器が沢山あるなあ、と眺めていたら、警察官が来て、裏から出るように云われた。おもてはチャタラの足跡の採取などがあるのだろう。俺達は素直に従って、警備員の案内で、非常口から外へ出た。母が電話で、裏に来てほしいと云っている。
首を伸ばして通りの様子をうかがう。どうやら、メディア関係者が集まってきているようだ。新聞社やTV局の名前いりのバンが、道路にずらっと停まっている。これって路上駐車にならないのかなあ。とりあえず、表から出なくて正解だった。
母はハイヤーを二台手配していて、両親と妹が一台目に、もう一台に俺がのって、俺達は博物館を離れた。
母は代金をキャッシュレスで払っていたみたいで、俺がお財布をとりだすと運転手さんに制された。お礼を云って車から降り、外階段をのぼって部屋へ這入る。内側からしっかり施錠し、手を洗ってうがいをし、服をかえ、用を足し、リビングの灯をつけ、水道のお水をグラスに一杯飲む。
メニューを開いて、チャタラの名前を確認した。俺は頷いて、浴室へ行く。灯をつけ、ずぼんの裾をめくりあげた。
「マルジャン、ヤラ、おいで」
またしても、目の前にしゅっとあらわれた。浴室の床がいっぱいいっぱいだ。「マルジャンはこっち」
浴槽を示すと、マルジャンは素直にそちらへ移る。俺は頷いた。
「今から洗うからね」




