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数回同じことを話して、ようやくと、警察官が離れていった。と思ったら、別のひとが来る。
「あのー……」
「あ、これお兄ちゃんにもらったやつ」
警察官はほっとした様子を見せた。手のなかには、妹がひったくられた指環がある。
ひったくり犯は、どうやらチャタラに蹴られるなりしたらしく、博物館のすぐ外にのびていたそうだ。ついさっき、救急車に担ぎ込まれる直前に意識をとりもどし、逃げようとしたので怪しいと思って問いただすと、ポケットから指環が出てきた。うーん、そのまま病院まで行っていれば、うまく逃走できただろうに、間がぬけてるな。
犯人曰く、魔が差した、そう。売れば大金になると思ったら我慢できなかったとかなんとか。他人の指環を見てそういうことを考えるのがだいぶアウトだと思うな。まあ俺はひとの食べてるもの見てどんな味かなとか考えるけどね。
警備員が呼ばれて、職員も出てきた。警察官が指環を持ったままどこかへ行き、すぐに戻ってきて、妹に指環を返してくれた。監視カメラの映像を見て、本当に妹のものかどうかたしかめたそうだ。ロビーのショーケースにへばりつくようにしていた妹の手は、監視カメラにばっちり写っていて、そこを拡大すればはっきりわかったらしい。「そんなのまで見えるんですか?」
「うちの防犯カメラは最新のものなんです」
警備員が自慢げに云った。そういやあ、ここって貴重品が沢山あるのだ。防犯カメラが尋常じゃない性能でもおかしくない。なるほどなー。
また、チャタラについての聴取があった。謎の生物というのはやはり大変なことみたいで、それはわかっているのだが何度も何度も同じことを繰り返すのはさすがに疲れてくる。
「それで、けっとばしたんです」
「どんな感じでしたか?」
「どんなって」
ちょっと考えた。「なんだろうな。覚えてません」
「あのですね、凄くかたいとか、そういうことありませんでしたか?」
うん?
これは、あれか。機械的な、ロボット的なことだと思ってるのか、警察は。まあ、やろうと思えばできるのかもしれないな。
「覚えてません」
「はあ……」
「お兄ちゃん、よくあんなのに近寄れたね。くもだったら毒があるかもしれないのに」
妹がぎこちなく口をはさんだ。俺は頭を振る。「あれはくもじゃないよ。脚の数が足らん」
「くもっぽかったけど」
「俺には猿みたいに見えたけどな」
顔が猿に近いんだよな。でも猿みたいに可愛くない。
警察官が声を裏返らせた。
「猿ですかア?」
「はい」
「はあ……」
当然だが、一般市民相手には喋れないことが多いのだろう。警察官は困ったような顔で、唇をゆがめた。




