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警報が鳴っている。
「隠れて」
妹の手首をひっぱって、別の部屋へとおしやる。チャタラ、一体だけじゃないのかよ!
背に腹はかえられん。「お兄ちゃん!」どうしようもないので、俺はチャタラへ向かって走っていった。
こいつはだいぶ、こっちに強いやつみたいだな。弱ってるけど、しゅうしゅう云いながら5mくらいとびはねている。ケースに飛びのって更にジャンプすればその分距離が出る訳で、灯はこいつがぶちあたって壊したのだろう。その証拠に、チャタラの体にはがらす片が幾つか刺さっている。
俺は走った勢いのまま、思い切りチャタラを蹴りとばした。
魔王のスキルは有効だったらしい。俺の蹴りはお世辞にも綺麗なものではなかったが、チャタラは飛んでいった。妹や学芸員達から距離ができた!
チャタラへ駆け寄って、低声で云う。「使役」
大丈夫だ、使役できた感覚がある。チャタラがこちらを見て、怯えたように後退る。
「マルジャンのとこへ行って、逃走と捕食以外には魔法をつかわずに隠れてて」
低声で命じると、チャタラは右後ろ脚をひきずりながら、外へ出て行った。怪我はひきとれないが、状態異常はひきとっておこう。
あたらしく使役したチャタラから状態異常をひきとったら、吐き気と眩暈で、俺は立っていられずにその場に片膝をついた。
「無理せんでよ」
「ああ、もうせん」
妹が俺の顔を、ぬらした手巾で拭っている。警報は停まった。灯は壊れたままだが、バルーン投光器が持ち込まれ、明るい。
俺はおそれおおくも、じゅうたんのケースに寄りかかっていた。明るいので、惨状が見えた。チャタラはむちゃくちゃ暴れたようで、俺が寄りかかっているのとは別のじゅうたんのケースを割って、中身をひきずりだしていた。現場検証だなんだですぐに片付けしてはいけないらしく、学芸員が警察官にくってかかっている。「この品が幾らすると思ってるんですか?! それにこれは、重要な資料なんですよ!」
警察官は弱った様子だったが、警察もお仕事で来ているのだ、証拠品を集める作業や、写真を撮ったりなんだりがあるのだろう。
両親はどこかのお部屋に居るらしい。ほかのお客さんも一緒だ。ここに居るのは、チャタラの襲撃で怯えきった学芸員と、なにもできなかった警備員達、カウンタの奥に隠れていた受付嬢、俺と妹だ。みんな、事情を聴かれている。
「それじゃあ、蹴ったんですね」
「はい。なにか、問題になりますか?」
俺と妹の聴取をしている警察官は、困り顔で小首を傾げた。UMAを蹴ったらどんな法律にひっかかるか、考えてくれているらしい。




