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でも……このまま、マルジャンを使役していて、なんとかなるのかなあ。
死んでしまったら、収納空間にいれておけば大丈夫だとは思う。収納空間持ちが死んだら、巾着切りが居ない限り、収納空間の中身は出てこない。使用条件が同じだから、それも同じだと信じたい。
溜め息をついて、マルジャンの様子を見てみようと、メニューを開いた。すると、封印解除までの秒数が、またしてもかなり減っている。それでもまだ、百五十年以上後だ。
たとえば、トゥアフェーノみたいに二百年くらい生きる生きものが魔につかれて、封印されたら、封印が解けたらあちらに戻れるのかもな。それとも、封印でもひとによって、効果時間が違うんだろうか。魔法だから、個人差があるのはわかる。ほーじくんはこれだけの期間、封印しておけるんだから、きっと凄い祇畏士なんだ。
どちらにせよ俺には時間がない。
もう一度、マルジャンの体にたまった毒をもらった。カウンタの動きが鈍くなる。俺の体調に依存してるのかなあ。
「お兄ちゃん」
トイレの外から妹の声がした。俺は手を洗い、外へ出る。妹は右手を庇うみたいに左手で握って、あおくなっていた。
「どうした?」
「指環……とられた」
「は?」
警備員さんが走ってきた。「今、警察がこちらへ向かってます」
「なにがあったの?」
妹へ尋ねる。妹は潤んだ目をしばたたく。
「見学してたら、いきなり手を掴まれて、指環、とられた」
「怪我は? してないよな?」
妹が頷いたので、俺はほっとした。
「よかった……指環くらい心配するなよ。あれくらいのならまだあるから」
「あれくらいって」
「ほら」
ポケットのなかに収納空間の口を開いて、アレキサンドライトの指環をとりだした。12カラットくらいで、わっかと土台はプラチナだ。さっきまで妹がつけていたものより、5カラットは大きい。
妹も警備員もきょとんとした。俺は妹の手に指環を握らせる。妹が気に病んだ様子なのが耐えられない。この子は生まれついて口が悪いが、精神状態が不安定になることがあるのだ。受験で名前を忘れたり、なんの為に生きているのかとなやんだり、そういう生真面目なところがある。
「ほら、これで大丈夫。な」
危うく、安物で悪いけど、というところだった。口を噤んでそれをこらえる。妹がなにか云おうとした時、悲鳴が響いた。
警備員が走っていく。妹もだ。俺は妹を追う。
辿りついた先はロビーで、壊れたのか誰かが壊したのか、灯が幾らか消えている。学芸員がふたりうずくまっている。じゅうたんのケースの傍にチャタラが居た。マルジャンじゃないやつだ。




