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両親はもう来ていて、俺達はウェイターさんに案内されてその席まで行った。「真緒、お帰り」
「ただいま」
「インドまで行ってたんだって?」
妹がなにか話したようだ。俺は苦笑いで、答えない。
妹と並んで座ると、すぐにお酒が運ばれてきた。こんなところもなんだか変だな。お酒をおおっぴらに呑むなんて、おかしなことに感じる。ロア系じゃないんだから。
特にその話題は出ないが、多分裁判勝利の前祝いなんだろう。親も妹も、嬉しそうだ。
会話は、俺が居ない間のものがほとんどだった。妹のバイト先の火事は、かなり酷いものだったようで、報道番組で生中継されたらしい。あとは、おじさんが傾いているジュエリー会社を買いとって、ジュエリー販売にのりだそうと意気揚々らしい、とか、行方不明事件が相次いでいて物騒だ、とか。
ハンガリークッキーを食べていた俺は、顔を上げる。
「行方不明?」
「ああ」
スパークリングワインを呑みながら、父が答える。「真緒はインドだったから、ニュースを見てないんだな。この近辺でふたりも行方がわからなくなってるんだよ」
「三十歳手前の、可愛らしいお嬢さんと、小学生の女の子」母が気の毒そうに眉を寄せた。「小学生の子は、親が殺したんじゃないかって。酷い親らしくて」
「名前、わかる?」
「大人のほうは覚えてるよ」
妹がちらっと俺を見た。「変わった名前なの。四滝伽羅子ってひと」
カーサ・ベルデは、ケータイの持ち込み自由だし、大きな音さえたてなければ通話も問題ない。勿論音を切ってしまえば、ネットのニュース記事の閲覧なんてなんの問題もないのだ。
俺はハンガリークッキーを食べるのを辞め、ケータイを操作していた。地名と行方不明を組み合わせて検索すれば、伽羅子さんの記事は幾らでも出てくる。そして、伽羅子さんの名前を聴いて予想したとおり、もうひとりの行方不明者はコマちゃんだった。
ふたりの扱いは、似ているけれど全然違う。どちらも同情するような記事で、コメント欄も心配や怒りでいっぱいだ。
でも、伽羅子さんは、生存しているだろうと考えているひとが多かった。伽羅子さんはいわゆる地下アイドルだったのだが、熱狂的なファンが居たみたいだ。そういうひとにさらわれたのでは、と目されているらしい。それでも充分心配だが、殺されてはいないのではと云う意見が大勢だ。
家族が心配していて、何度かTVに出ている。田舎の猟師の家で生まれ育ったみたいで、自身も銃砲はつかわないが罠猟などに参加したことがあるという伽羅子さんのキャラクターと相まって、皮肉なことにファンが沢山できていた。有志がつくったページまでできている。
一方のコマちゃんは、その生存が絶望視されていた。




