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カーサ・ベルデは、両親のお気にいりの、スペイン料理店だ。確実にお酒が出てくるので、俺達は駅まで歩き、電車にのって、そこへ向かった。時間帯の所為か、電車はすいている。椅子に空きがあって、妹と並んで座った。
「このリボン変じゃない?」
「似合ってるよ」
妹は頭にリボンを結んでいる。カーサ・ベルデは、そこまで格式張ったお店ではないのだが、そこでお食事をする時には正装で、というのが我が家の決まりなのだ。妹は露出の少ないワンピースに、丈の短いうすでの上着を羽織り、綺麗なエナメルの靴を履いている。なにがはいるのかわからない、小さな鞄も持っていた。
俺はちゃんとしたジャケットにシャツ、スラックスで、革靴をはいている。首許がもごもごするのがいやなので、ネクタイはしていない。ただ、なんとなく、ツィーさまのペンダントと、同期との指環が通った鎖は首にかけていた。シャツのなかだから目立たない。お財布と手巾はポケットにある。
「お兄ちゃんはさ、なに着ても似合うからいいよね」
「そう?」
「そう」
「お前もそれ、似合うよ」
妹の右中指には、アレキサンドライトの指環がはまっている。妹は買いだめしていたチョコクッキーをひと袋くれて、それで取引が成立したのだ。
模造品の宝石を身につけているひとが多いなかで、妹の中指にあるアレキサンドライトは相当目立った。やっぱり、本物のかがやきは違う。存在感がある。
「なくしたらどうしよお」
俺は散々、なくしてきているので、笑ってしまった。こちらの世界なら相当な財産を、俺はあちらでなくしたことになる。逆に、こっちではひとつ何十円もしないだろう小さなぼたんが、あちらでは尋常ではない高額で売られているのだから、やっぱり世界が違うなあ、と思う。
俺が笑ったのをどううけとったのか、妹はちょっと哀しそうな顔をして、俺の腕を優しく叩いた。
電車を降りると、カーサ・ベルデはすぐだ。俺達は並んで、駅の出入り口まで移動する。外は小雨が降っていて、妹が駅のすぐ外にあるコンビニを指さした。「傘、買っていこう」
「傘?」
「だって、雨降りよるから」
ああ、そうなるのか。
あちらだと、魔法で乾燥させられるから、多少の雨じゃあ誰も傘なんてささない。多少、じゃなくても、傘なんて目もくれないひとも居る。
そうだよな。雨に濡れたら、すぐに乾かせないものなんだ。
俺は妹に手をひかれ、コンビニへ這入った。傘を一本買い、お互いちょっとずつ雨に濡れながら、レストランへ歩いた。




