3298
俺は俯いて、唇を嚙んでいた。
皮肉というか笑い話というか、岸ちゃんの言葉は、偶然俺の情況に、ぴったりではないが合致してしまっている。
あちらの世界でやった悪いことといえば、四月の雨亭や賭場で絡んできたひとを数人、魔法で昏倒させたことと、ハツァルの邸で暴れたの、ウロアを騙して嘔吐剤を服ませたこと、レンウィくんに絡んだ傭兵を気絶させたことと、誘拐されて犯人に反撃した……くらいだ。正直、レンウィくんに絡んできた傭兵を気絶させたのは、今ではやりすぎだったかもと思っているし、ほかにもっとうまい手段があったよなとも思う。
でも、それらのこと全部が、100%俺に非があるかといえば、違うとも思う。幾つかは正当防衛だと思っているし、まあ、過剰防衛もあっただろうが、少なくとも、俺から攻撃を開始したことはない。なにかされたからやり返す、くらいしか、していないのだ。それも言葉で解決しろと云われたら困るが。
標準よりは悪寄りという自覚はあるが、世界征服とか、人類滅亡とか、そんな壮大な目標もないしそういうこともしてない。なのに、悪しき魂、魔王、それだけで怯えていなくちゃいけなかった。
ほーじくんは、俺個人ではなく、俺の特殊能力だけを見て封印した。
でもそれが、悪いとは思えない。あちらではごく普通の、正しい行動だからだ。それはわかってるし、ほーじくんを責めたくはない。ほーじくんはつらかっただろうと思う。
それなのに、岸ちゃんにああ云われて、なんていうか、苦しくなった。ほーじくんは悪くないと思うのは、かわらないけれど、あちらの世界の常識そのものが憎らしく思えてくる。
ほーじくんにつらい思いをさせたのは俺だけど、常識が違ったら結果も違った筈だ。
悪しき魂が悪い、という認識がなかったら、魔につかれているものは悪だ、という常識がなかったら、俺は封印されなかった。もしかしたら今頃、ほーじくんやミューくん達と、楽しくお茶をしていたかもしれない。
そうだったらよかったのに、と思って、ばかばかしくなった。なんだよ、俺やっぱり、帰りたくなかったんだ。
岸ちゃんが立ち上がった。「そろそろ帰るわ」
「うん」俺も立つ。「久々に話せて、楽しかったよ」
「あたしも。ねえ國立い、へこたれないでさ、國立のことちゃんと信じてくれる相手、さがしなよ。そんで、今度は紹介して。まともなやつかみきわめてやるから」
「大丈夫だよ」
多分、こんなふうにひとを好きになることは、もうないだろうから。
岸ちゃんの夫が、赤ん坊を優しく揺らしていた。岸ちゃんが俺にちょっと手を振って、そちらへ行った。
感想ありがとうございます。はげみになります。




