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 俺は俯いて、唇を嚙んでいた。

 皮肉というか笑い話というか、岸ちゃんの言葉は、偶然俺の情況に、ぴったりではないが合致してしまっている。

 あちらの世界でやった悪いことといえば、四月の雨亭や賭場で絡んできたひとを数人、魔法で昏倒させたことと、ハツァルの邸で暴れたの、ウロアを騙して嘔吐剤を()ませたこと、レンウィくんに絡んだ傭兵を気絶させたことと、誘拐されて犯人に反撃した……くらいだ。正直、レンウィくんに絡んできた傭兵を気絶させたのは、今ではやりすぎだったかもと思っているし、ほかにもっとうまい手段があったよなとも思う。

 でも、それらのこと全部が、100%俺に非があるかといえば、違うとも思う。幾つかは正当防衛だと思っているし、まあ、過剰防衛もあっただろうが、少なくとも、俺から攻撃を開始したことはない。なにかされたからやり返す、くらいしか、していないのだ。それも言葉で解決しろと云われたら困るが。

 標準よりは悪寄りという自覚はあるが、世界征服とか、人類滅亡とか、そんな壮大な目標もないしそういうこともしてない。なのに、悪しき魂、魔王、それだけで怯えていなくちゃいけなかった。


 ほーじくんは、俺個人ではなく、俺の特殊能力だけを見て封印した。

 でもそれが、悪いとは思えない。あちらではごく普通の、正しい行動だからだ。それはわかってるし、ほーじくんを責めたくはない。ほーじくんはつらかっただろうと思う。

 それなのに、岸ちゃんにああ云われて、なんていうか、苦しくなった。ほーじくんは悪くないと思うのは、かわらないけれど、あちらの世界の常識そのものが憎らしく思えてくる。

 ほーじくんにつらい思いをさせたのは俺だけど、常識が違ったら結果も違った筈だ。

 悪しき魂が悪い、という認識がなかったら、魔につかれているものは悪だ、という常識がなかったら、俺は封印されなかった。もしかしたら今頃、ほーじくんやミューくん達と、楽しくお茶をしていたかもしれない。

 そうだったらよかったのに、と思って、ばかばかしくなった。なんだよ、俺やっぱり、帰りたくなかったんだ。


 岸ちゃんが立ち上がった。「そろそろ帰るわ」

「うん」俺も立つ。「久々に話せて、楽しかったよ」

「あたしも。ねえ國立い、へこたれないでさ、國立のことちゃんと信じてくれる相手、さがしなよ。そんで、今度は紹介して。まともなやつかみきわめてやるから」

「大丈夫だよ」

 多分、こんなふうにひとを好きになることは、もうないだろうから。

 岸ちゃんの夫が、赤ん坊を優しく揺らしていた。岸ちゃんが俺にちょっと手を振って、そちらへ行った。


感想ありがとうございます。はげみになります。

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こちらも宜しくお願いします。 ループ、あの日の流星群
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