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「ところで國立、失恋した?」
むせた。
咳込む俺を岸ちゃんは笑っている。「な、なに云ってんの」
「思ってたよりは元気だけど、なんか悟ったみたいな顔してんだもん。哀しそう。國立はもっと、目をきらきらさせてないと。あんたに負けたのはその部分でだけなんだから」
俺が岸ちゃんに勝てた記憶はないが、岸ちゃんには覚えがあるようだ。
「そんなんあった?」
「かるらの時だよ」
あー、ひたすら倒れる練習をさせられた記憶しかねえな。
岸ちゃんは脚をぱたぱたする。
「で、失恋したの」
「だから……」
「吐きな」
俺は肩をすくめる。岸ちゃんはにやっとした。「したんだね」
否定の言葉は俺の口から出てこなかった。
「國立をふるなんてさあ、よっぽど自分に自信がある女だね」
「あー」
相手は女性ではないし、そもそも確実に付き合っていた訳でもない。だから、失恋ともいえない情況だ。ただ、俺がこれからどれだけほーじくんのことを好きになっても、ほーじくんはもう俺のことを好きにはならないだろう。
足の爪先を見る。岸ちゃんが足を揃えてのばした。
「いい女だった? 高慢ちき?」
口を噤む。でも、勘違いはいやだなと思ったので、思い切って口に出した。「女の子じゃないよ」
「は?」
しばらく、どちらも黙った。岸ちゃんの子どもが、きゃっきゃっと笑っているのが聴こえる。
岸ちゃんが戸惑い気味に訊いてきた。
「國立、男が好きなの」
「わかんない」
「なにそれ、どういう意味?」
「あんまり、恋愛とか、したことない」
岸ちゃんは困惑したみたいだったが、溜め息を吐いてから云った。「まあいいや。國立が誰を好きでもあたしに関係ないし。あ、うちの旦那はだめね。それ以外なら誰とでも、あんたならうまくやれると思うよ」
「岸ちゃんって変だよ」
「細かいこと考えたくないのよ。そんで、お相手は? どんな感じ」
肩をすくめた。岸ちゃんはまた、しばらく黙る。
「あのさあ」
「うん」
「あんたが炎上して、それでだめになったんなら、そんな男はもうだめだよ。どれだけあんたの悪い噂が立っても、あんたが悪くないってことを信じてくれるのが、ほんとにあんたのことを好きな相手じゃん。大体さ、國立と接してて、くだらないいじめとか、いやがらせとか、なんかいかがわしいこととか、そういうことしてるって噂を信じるんなら、なんにも見る目ないね。別れて正解。もっといい女でも男でも、國立なら捕まえられるよ。だからそんなくだらない男のことでうじうじしない」
岸ちゃんは怒った口調でそう云い、近場の石をけっとばした。石はちょっとしか移動せず、岸ちゃんはもう一回石を蹴った。




