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「國立は?」
「俺は潜伏中」
「ばかどもが追ってきてんの?」
頷く。岸ちゃんはがははと笑った。豪快な女性なのだ。
「心配してたんだよ」
「え?」
「すっごい叩かれてたもん」
ああ……。
一瞬、行方不明になってたからかな、と思ったが、そういえば俺はこちらの世界から、ほんの何日かしか居なくなっていなかった。騒がれる前に戻れて、よかったのかな。
岸ちゃんは脚をぱたぱたさせる。
「おかしかったよね」
「なにが?」
「あそこ」
どこを指しているのか、わからない。なので岸ちゃんを見る。彼女は苦笑いした。「國立はさあ、まともだわ」
「どういう意味」
「そのまんまだよ。別の事務所に移籍したらさ、待遇悪いのよくわかったもん。移籍金も凄かったし」
「へえ?」
変な声が出てしまった。
岸ちゃんがぽつぽつ語ったところに拠ると、かつて俺達が所属していた芸能事務所は、あまりいいところではない……というか、悪いところだったようだ。
ギャラは天引きが酷いし、人気の出た子役を他事務所にうりこみ、めちゃくちゃ高い金額を払わせて移籍させるなど、むちゃくちゃをしていたらしい。その上、移籍した子役本人からも、今までのマネジメント代と称して大金をまきあげていた。
妹が、有名人が俺を擁護したという話をしていたけれど、それだけじゃなかった。事務所がいかにおかしかったか、みたいな話もちらほら出てきて、それも論調がかわるきっかけだったらしい。
話からすると、俺が炎上したのに、所属していた事務所の人間が関わっていたようだ。
「へえ」
それ以外に云いようがないので、俺はそう云った。岸ちゃんが訝しげに俺を見る。俺は首を傾げた。
「なに?」
「いや……國立、もっとショックうけるかと思った。そうなったとしても伝えとくべきだと思って、云ったんだけど、なんか平気そうだから」
「ああ、いや、話聴けてよかったよ。俺、全然知らなかったから」
岸ちゃんは隠しごとをよしとしない女性なのだ。夫になった男性との交際も、ずっとオープンにしていた。
まあなあ。今更、ショックをうけるというのは、ない。異世界を経験する前の俺なら、もしかしたら二・三日くらい寝込んだかもしれないけれど、今は大丈夫だ。
そういうばかげた行いをする人間も居るよね、と考えられる。なんでもない。俺がそいつらみたいな人間になる訳じゃないのだ。
それに、なにを云われても、それが嘘なら平気だ。家族や知り合いが信じてくれるのならそれでいい。
俺、だいぶ図太くなったみたいだ。




