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強引な仮説だが、現にマルジャンはその場に居るだけで毒状態になっている。空気か地面くらいしか、原因と考えようがない。
「あのさ、病気ではないよね?」
あちらにはない病原菌で弱っている、という可能性も考えて、マルジャンに訊いてみた。わからないようで、マルジャンは動かない。でも、病気なら病気、もしくはくわしく状況説明があると思う。ラシェジルの時はそうだった。
それとも、なにか変なものを食べて、それを消化し切れていなくて体内で悪さをしているのかなあ。わからん。
とにかく対症療法しかない。細かくチェックして、マルジャンが毒になっていたらそれを譲ってもらおう。
俺はサローちゃんの解毒薬をのみほし、壜を収納した。立ち上がり、椅子もそうする。もう一度メニュー画面を見ると、やっぱりカウンタは異常な速度でまわっていた。
ひとに見付からずに居られるか、質問すると、マルジャンは頷いた。どこかに隠れ家を発見したらしい。人間を見たら逃げること、魔法は逃走と、小動物の捕食など以外にはつかわないことを約束させ、解散した。
公園へ戻る。赤ん坊を抱いた男のひとと、赤ん坊にミルクをあげようとしている女のひとが、ベンチに居る。子ども人気はなくなったが、赤ちゃんをつれての散歩コースにはいいみたいで、別のベンチにも似たような三人連れが居た。
ベンチは出入り口近くにあるので、どうしても親子連れの傍を通ることになる。俺は軽く会釈して、通りすぎようとした。「お、國立い」
びくっとする。
振り返ると、哺乳瓶を片手に女性が立ち上がっていた。喜色満面だ。俺はその、女性にしては目と眉の間隔が詰まっている顔を見て、はっとする。
「岸ちゃん」
「おう。なんだあ、ネットでぼこぼこにされてるから、ひきこもってるかと思ったのに」
岸かおり。かつて同じ事務所に所属していた、もと・子役だ。
岸ちゃんの夫が、席をかわってくれた。彼は赤ん坊をあやしながら、近場でぐるぐる歩きまわる。
岸ちゃんは女性なのだが、メイン級の男の子役を幾らかしていた。原作があって、女の子みたいに可愛い、という設定の役は、岸ちゃんと俺がオーディションに行かされていたのだ。毎回岸ちゃんが選ばれていたが、同じ事務所なので移動なども一緒になり、その時間で親しくなった。
岸ちゃんは中学に上がる時に別事務所に移籍し、たしか今も俳優をしている筈である。今年の初めにさずかり婚をして、今は育休中。結婚式に招待されたが、現役の岸ちゃんの結婚式である。マスコミが居たらいやだなと思って、ご祝儀だけ贈った。
「岸ちゃん、この辺に住んでるんだ?」
「引っ越してきたんだ。旦那の実家にね。姑さんがいいひとでさ、毎日一緒になって旦那いじめてんの」
岸ちゃんは屈託なく笑った。俺もつられて笑う。




