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こちらみたいに、いろんな動物の居た時代を経て、進化で人間が誕生した世界ではない。
あちらは、開拓者がそういう行程をすっとばして、人間を流入させた。それまでにも動物は居たみたいだが、世界は荒涼としていて、生きていくのにはつらい環境だったと神話では伝わっている。
その上、開拓者が世界をまったくつくりかえた。
以前から不思議だったことがある。神話の本は色々読んだけれど、還元者と呼ばれる神さまは存在しないのだ。還元はあちらの世界にとって、なくてはならないものなのに。
そして、廟で見た釘還元。開拓者があちらではじめて、還元で手にいれたという釘。開拓者のアトリビュート。
ーー者でなく、還元をつかえるひと達が持っているのは「巡らせる者」だ。
あれって、もしかして、開拓者の別名なんじゃないか?
神話で還元を行う描写が出てくるのは、俺が読んだ限り開拓者だけだ。
開拓者は、もともと居た世界が「だめになった」から、あの世界を人間が住めるように整えて、人間をつれてきた。
神話ではそうやって、「どうして移住してきたのか」は説明されるが、「どうしてもともとの世界はだめになったのか」については、はっきりとは説明されない。ただ、「住めるような環境ではなくなった」と説明される。
そして移住後、いろんな厳しい決まり、だからお酒はだめだとか、そういうものができていった。争い、殺生も推奨はされない筈だ。魔物を退治するよう兵達でさえいやがるひとが居るくらい、宗教は「殺す」ことを厳しく制限している。
開拓者はあちらの世界では、ほぼ全能の神さまと捉えられていた。実際、神話を読む限りでは、大概のことを解決できている。その神さまから見放されたという棄民思想みたいなものもあった筈だ。人間が苦しい状態で生きていかなくてはならないのは開拓者に見放されたからだ、と。
そんなになんでもできる開拓者はどうして、もともとの世界を整備せずに、ほかの世界へ逃げたんだろう。
もしも、開拓者がもと居た世界が、環境破壊、もしくは文明が進んだ結果の戦争などで滅んでいたとしたら、そのきっかけになるようなものは排除したいのじゃないだろうか。
だとすれば、石油や石炭など、燃料になりそうなものをすべてなくしてしまい、人間達にもあらゆるものを還元するように教えた可能性もある。開拓者がなにを考えていたかはわからないが、可能性としては。
不思議だったんだ。俺以外にもあちらへとばされたひとは沢山居たし、過去にも大勢居た。荒れ地文字の文書が沢山残っている。それなのに、こちらで見るような機械はなかった。
わからない。わからないけど、実際あちらでは石炭も石油も見たことがない。なら、存在しない、と考えてもいいと思う。そういうものの話も聴いたことはない筈だ。
開拓者がそれをなくして、還元でも手にはいらないようにすることは、可能だろう。
魔法は凄く便利だし、チートだと思う。でもそれは、日常においてだ。
あちらの魔法には、大勢を一気にどこかへ運んだりするような、移動に関するものがない。試したことはないが、収納空間には生きものはいれられないと思う。それに、どれだけ凄い魔法つかいでも、魔力が切れたら動けなくなる。最悪死ぬから、みんな魔法をつかう時はセーブする。
それでも人間達は争っていたが、致命的な環境破壊などには至っていない。還元でなにもかもを世界に還しているから。
そして、魔物が居るから、だ。
そこも疑問だったのだ。開拓者はどうして、魔物を排除しなかったのだろう。「だめになった」もとの世界から人間をあたらしい世界へつれてきて、人間が住みやすいように環境を整えたのに、どうして魔につかれたものを排除しなかったのか。
人間同士が激しく争わないように、別の脅威を用意したのではないか。魔王や黒騎士も、その為の存在じゃないのか。
魔王や黒騎士が出現する前後には、有用な特殊能力やめずらしい職業の人間が増える、という話もある。それって逆じゃないんだろうか。
大きな戦いに発展しかねない戦力になる人間が増えたから、人間同士で戦わないように犠牲の羊が用意される。
そう考えれば、「人間にとって有益な」悪しき魂の存在意義はある。開拓者が人間を見捨てたなんて話は俺は信じていない。本当に人間に嫌気がさしたのなら、魔法と還元をとりあげればあちらの世界はほとんど成り立たない。
これ以上考えたら頭がどうにかなりそうだ。
とにかく、チャタラには、排気ガスが毒なんだろう。俺だって、戻ってすぐにはあれが強烈な匂いに感じられた。今はもう、以前の感覚に戻ったけれど、チャタラは今まで排気ガスのない世界に居たのだ。




