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妹はソファに転がって、ケータイを操作しはじめた。俺は床に座ってソファに凭れ、たまに妹から頬っぺたをつつかれている。TVには妹が友達からすすめられた映画第二弾が流れていて、なかなかの不条理ミステリだった。
「あー」
「なに?」
「バイト先、営業再開が延期になった。工事、予定よりもかかるんち」
「残念だね」
「もらい火やにさ。理不尽よな」
なあ、と肯定を返す。妹は怒っているらしかったが、しばらくすると眠った。
収納空間からとりだしたケータイを、充電する。充電はそんなに減っていないが、気になったから。
コードをつないだ状態で、画面を触った。両親からメッセージが来ている。妹が連絡したようで、ふたりとも俺が帰ったのを知っていた。
母はなかなかの長文で、旅行は楽しかったか、どんなお菓子を食べたか、ゆっくりできたかなどを訊いてきていた。母は、質問に対して最悪答えなくてもゆるしてくれるという、信じがたい美点がある。
父は、お帰り、お土産後でとりに行く、と、業務連絡みたいな文章を寄越していた。父は昔から、普段喋る内容とケータイのメッセージに異常な差がある。
これは、今日中に親がやってくるかもしれない。実家からさほどの距離じゃないのだ。
俺はどちらにも対応できる「うん」と返し、ネットニュースを閲覧する。チャタラ目撃記事は複数あったが、内容はどれもうすい。さいわいなことに、あのお店では店員が業務中にケータイを持てない、もしくはチャタラを目撃した店員がみんな、突然の出来事に対してとっさにケータイをとりだすタイプではないらしく、写真を撮られなかったのだ。なので、想像のイラストや、なにかしらの映像作品から借用したCGなどがのってはいるものの、正直信憑性はうすく感じた。チャタラがこの近辺に居ることを知っていなけりゃ、嘘くさいな、と思っただろう。
巨大な野良犬を見間違えた、みたいになって、収束してほしい。四本脚だし。いや脚が長いけど。
ネット記事よりも、問題なのはネット掲示板だった。
俺もこれにはなやまされたものだが、憶測でとんでもないことを書いているひとが多い。国が研究していた生物兵器ではないかとか、放射能で巨大化したのじゃないかとか、いや電磁波だとか、ダイオキシンだとか、マイクロプラスチックが影響しているのじゃないかとか。
もしくは、オーダー24の勤務が厳しすぎて集団幻覚を見たのだとか、店の宣伝の為にでっち上げた騒動だ、というのも、散見された。それで、店員達が捕まえようといきまいていたのか。こういうのが一番腹がたつもんな。




