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「おじさんとこに行かなくていいの? もう、現物は送った?」
答えないでいると、妹は首をすくめ、話題をかえる。「明日、お兄ちゃんどうする?」
「明日?」
「裁判」妹は平然と云い放つ。「わたしはあいつらが破滅するの楽しみにしてたから、見に行く。まあ、今まで一度も、被告人は出廷してないけどね」
唸る。そうか、俺のなかではもう二年近く前のことなのだが、こちらではまだほんの数日だ。
「ていうか、あれやな。急な展開」
「お母さん達から聴いてない? お兄ちゃんのこと、なんとかいう俳優が擁護したんよ」
「へえ? 誰?」
まったくもって心あたりがない。
妹はライチをむきながら云う。「監督もしてて、去年、なんか撮ってたひと。アクションので、ほら、数字がついた丸い球を」
「ビリヤード」
「そうそれ。それをやるとこで銃撃戦するシーンが凄いって云われてたひと」
妹は自分が興味のないことに関して、名称を覚えない。ビリヤード場で銃撃戦なら多分あの映画かな、と思うのはあるが、名前を出しても無駄だろう。適当に、多分それやわー、と云われるだけだ。この点は妹といえ軽くいらいらさせられるところなので、あえて地雷を踏みに行く必要はない。
妹はにこっとした。
「そのひとがな、お兄ちゃんが赤ちゃんの頃出た映画にも出てて、お母さんもお父さんもちゃんとしたひとやから子どももちゃんとしてるだろうって」
「ちょっと待って、赤ちゃん?」
「それも聴いてないん? お兄ちゃん、赤ちゃんの頃、ちょっとだけ映画とか出てたって。お母さん達も忘れてたらしいけど、代役で」
はあ。はあー。この親にしてこの子ありだ。さすが俺の両親、ぬけている。
なんか知らんが、とにかくその俳優であり監督でもある人物が俺を擁護したことで、ネットの論調が一気にかわったらしい。まあね。監督としては飛ぶ鳥を落とす勢いだし、俳優としては大御所だ。
丁度、俺の親や親族が協力して証拠を集めたり、証言をしてくれそうなひとをさがしたりしていたのが結実し始めた頃で、時期的にばっちりだった。証拠が出て、硬派かつ人気のある有名人が擁護して、となれば、そりゃ、世論はひっくり返る。
「でもおじさん、やるわあ。さすがにインドやったら、お兄ちゃんに絡んでくるばかも居らんやったろ」
どう返事したらいいのかわからなくて、俺は苦笑いした。絡まれたか絡まれていないかで云えば、絡まれているしさらわれたりもしている。そう考えると俺は、随分危ない目にあってきたらしい。




