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食糧がローテーブルの上からなくなると、俺達は食器を洗って布巾で拭き、食器棚へしまい込んだ。それから順番に用足しに立ち、洗面所で並んで歯を磨いて、リビングへ戻った。これから厳しい尋問が待ち構えているかもしれない。まあ、妹に限ってはそんなことはないだろうが。
「お兄ちゃん、これ返す」
「返されても困るよ」
「こっちも困ってるんだけど」
睨まれた。俺は目を逸らす。
妹は溜め息を吐いて、ローテーブルの上にアレキサンドライトの指環を置いた。あれは多分、緑珠さんのとこで買ったやつだ。一番最初に、緑珠さんのお店を見付けた時に、渡し忘れたと緑珠さんが追いかけてきて、うけとったもの。
妹はローテーブルへ両肘をつき、手の上に顎をのせる。
「インドでも、そんなに格安では売ってないでしょ? ひとに簡単にあげちから」
「俺が買うたもんやから、自由やろ」
「お兄ちゃんってそういうとこある」
「いいとこでしょ」
「ひとを困惑させるところやけど」
妹は腹だたしげに云って、さっと立ち上がると、キッチンへ行った。冷凍庫を開け閉めする音が聴こえてくる。そのあと、かたい音がした。妹は肩をいからせて、冷凍ライチを山と盛ったボウルを持ってくる。「食べよ」
俺は勿論、喜んで承諾した。
「幾らしたの」
「キャベツひと玉よりも安い」
「はあ?」
「かごで売ってて、そのうちのひとつやから」
「あ、そう。わかった」
はぐらかしたと思われたようだ。俺は肩をすくめる。
ごみ箱にはライチの皮と種がたまっていっている。半解凍くらいで食べるのが一番好きかもしれない。勿論、生のライチと比べたらどうしても風味や味が落ちてしまうが、生のライチを簡単に入手できる環境でもないしな。
口から出した種をごみ箱に放ろうとして、考え直してちょっと眺めた。耕作人なら、これから苗にしたりできないだろうか。耕作人って、農業が得意だもん。種や苗があれば、ある程度の成果は上げられるんじゃないかな。
あっちでもライチはあったけれど、めずらしいものだった。でも、一度冷凍してるから、ここから発芽させるのは無理かなあ。
そもそも、今そんなことを考えたって仕方ない。俺は鼻で笑ってしまった。自分をだ。
あれだけ、もとの世界のほうが安全だとか、快適だとか、ごたごた考えていたくせに、戻ったらあちらに未練たらたらで、なにかと云えば考えている。ばかばかしい。
俺はここに戻った。それは正しい。誤りが正された。そういうことだ。ほーじくんは、なんにも間違ってない。




