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しかしどうやら、店員達はチャタラを捕獲しようとしているらしい。それはまずい気がする。こいつはこちらの世界の生きものじゃない……と思う。もしかしたら、遙か昔にはこちらに存在していて、開拓者があちらへつれていった後、こちらに残ったチャタラが絶滅したって可能性もあるが。
店員達が喋っているように本当にこいつが謎の病原菌を保有している可能性もある。
「使役」
俺はすぐにそう云った。少なくともこいつを綺麗にしなくては。
俺は状態異常無効だから、あちらでは平気だったけど、こちらの世界の人間だったら普通死ぬような病気を持っているってこともありえなくはないんだから。
チャタラは相当弱まっていたのだろう。使役できた感覚があった。それに、チャタラは黒っぽくて白目のない目で俺を見て、かすかに上下した。
「状態異常、毒とかそういうの、とにかく全部、悪いものは俺に譲って」
チャタラが頷いたように感じた、と思ったら、猛烈な吐き気が襲ってくる。「体力と魔力、少しずつ分ける。誰にも見付からないところに隠れてて」
片膝をつきながら必死にそう云うと、チャタラはぴょんと跳ねて居なくなった。俺はそれを見届けてから、その場に思いきり吐いた。
「すみません」
「大丈夫ですか?」
頷く。吐いたらなんでもなくなった。チャタラはなにか、悪い状態だったようだ。それは間違いない。病気なのか、毒なのか、それは不明だが。
俺は、ドラッグストアの店員からもらったミネラルウォーターを、ふた口飲んだ。口のなかの酸っぱさが消える。「汚してすみません」
「いえ、あんなもの見たら吐きたくもなりますよ」
店員は憤慨している。別の店員が、俺が吐いたものを綺麗に流してくれていた。すぐ傍に溝があるので心配ないらしい。
「でももしかしたら、変なウイルスとかかもしれませんから、病院に行ったほうが」
「大丈夫です」
断って、財布から百円玉をとりだした。ミネラルウォーターが幾らか覚えていなかったが、百円以内なのは間違いない。
だが、店員はそれを断った。「戴けません」
「でも」
「あんなものが敷地に這入りこんだのは、店の責任です。こっちがおわびする立場です」
きっぱりと断られたので、どうしようもない。俺はお金をお財布へ戻し、お財布をポケットへ戻す。
店員は頭を下げた。「後日、おわびに伺います」
「いえいえ、結構です。お店の所為じゃあないですよ」
「いえ。お名前と……」
その時店員は、俺の顔をはじめてきちんと見たらしい。もと・子役を見た驚きをその顔に発見し、俺は苦笑いでお辞儀して、逃げ出した。




