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「じゃあ、仕入れ値で売るっていうのは?」
「お兄ちゃんって、水佳のこと億万長者だとでも思ってるの?」
呆れた声が返ってくる。妹は、俺がおかしくなったとでも思ったのかもしれない。心配そうな色が見えた。
「それじゃあ、これから先のクリスマスと誕生日、全部まとめて先にプレゼントあげる」
「むり」
そこまで拒否されたら仕方がない。俺は肩をすくめ、諦めたふりをして、ポケットからとりだしたアレキサンドライトの指環を、妹の上着のポケットへ滑り込ませた。さて帰ろう。
俺は妹に追われながら走った。俺は家に戻るだけだが、妹はバイクをひきとらないといけない。途中で妹は立ち停まり、お兄ちゃんのばかーっ、と喚いた。
一応、家へ向かって進路をとったが、空腹を覚えた。
なにを食べようかな、と考えて、あちらのことを思い出す。こんなふうに、俺がまちなかでひとりうろうろしていると聴いたら、怒りそうなひとの顔が、複数ぱっぱっと思いうかんだ。セロベルさん、バルドさん、ソータさん、アロさん達、先生がた。みんな、元気だろうか?
あちらの食べものはおいしかった。なにも文句はない。たまにがっかりするようなものもあったけれど、それはこちらでも一緒だ。なにもかもが俺の口に合う訳じゃない。ほとんどのものがおいしかったんだから、いい世界だったよな。
でも、あちらでは食べられないものが多かった。衛生面での心配があって食べることを避けていたものや、手にはいらなくてどうしようもなかったもの、色々ある。
「魚卵食べたいな」
そうつぶやいたら、もっと食べたくなった。
よし、お昼はたらこパスタと、タルタルソースをかけたあじフライ、ケチャップをつけたえびフライ、きびなごの南蛮漬け、ぶりのつけ焼き、それからてんぷらにしよう。今日は尿酸値もプリン体も気にしない。
「納豆も食べよ。とんかつに納豆ソースにするかな」
俺はうきうきして、ドラッグストアへと向かう。俺と妹の胃袋を満足させるには、例のオーダー24へ行くのが、経済的にも胃袋的にも一番だ。UMAくらいでがたがた云っていられないのである。我が家のエンゲル係数はとんでもないのだ。 俺は意気揚々だった。あのお店には、あじフライもえびフライも、てんぷらも売っている。しかも奥のキッチンで調理している、揚げたてのものだ。久し振りに、お魚でおなかをいっぱいにしたい。
みんながここに居たら、楽しく一緒に食べたのにな。
「お握りも、買おう」
つぶやくと、淋しさは少しだけうすれた。




